実際、日常的に読書を行うことは、
加齢に伴う認知機能の低下をゆるやかにし、
より長期間にわたって脳の健康を維持することに
寄与すると考えられています。
こうした長期的な効果は
「認知予備力」と呼ばれます。
認知予備力とは、
脳に病理的な変化や損傷が生じても、
それらをカバーして、
認知機能を維持する能力のことを指します。
その最も印象的な事例の一つとして
知られているのが、
アメリカで長期間にわたり認知症研究に
協力した修道女の一人、
シスター・メアリーの話です。
シスター・メアリーは101歳で亡くなるまで、
記憶力がよく、頭脳明晰で、
生涯を教育や社会貢献に捧げました。
彼女の晩年の記憶力は、
同世代の誰よりも優れており、
周囲から驚嘆されていたと言われています。
しかし彼女の死後、
研究者たちはその脳を調べてさらに驚きました。
なぜなら、
彼女の脳内にはアルツハイマー病の脳に
特徴的な脳の異常
(老人斑=アミロイドβの沈着)が
非常に多く見られたからです。
通常、
これほどのアミロイド沈着があれば、
深刻な認知症状を示すはずなのですが、
彼女はその生涯を通じて
明晰な認知機能を維持していました。
つまり、
脳の物理的な病変があるにもかかわらず、
高い認知機能を保持することが可能だったのです。
これは非常に不可解な現象で、
研究者たちを驚かせました。
一体なぜ彼女は生涯、
明晰な頭脳を保ち続けられたのでしょうか。
実はシスター・メアリーは、
若い頃から読書と作文を非常に愛好し、
生涯を通じてその知的な活動を欠かさなかったのです。
特に若い頃に書いたエッセイには、
高度な語彙力と構成力が認められ、
その言語能力が非常に
高かったことが分かって
『読書する脳』