2つの太陽があるとどうなるか
「ここからが本題だ」
すっかり、
ヨーダ先生のミニ講義のようになってきました。
「地球人のほとんどはこの法則を知らんようだが、
それも太陽が1つしかないからだ。
普通に太陽が2つ以上ある惑星では、
この法則を知らないと一日の長さもわからない。
だから多くの惑星では、
知的生命はかなり早い段階でこの法則を発見するし、
子どもたちも自然に覚えてしまっている。
地球人が本当に知的生命といえるのか、
怪しいところだな」
相変わらずトゲのある言い方にはむっとしますが、
太陽が2つある惑星での一日はどうなるのか、
あなたは興味津々になってきました。
「太陽が2つあると、
まず日の出をどちらの太陽が出たときにするかで悩む。
どちらかの太陽が圧倒的に大きければ
そっちを基準にすればいいが、
同じくらいの大きさだと、
そもそも区別もつけにくい。
そして日の出が決まらなければ、
一日の始まりも決められない」
先に地平線に上がったほうを日の出にして、
最後に沈んだほうを日の入りにすれば
いいのではないでしょうか、
とあなたが言うと、
ヨーダはまた、ふん、と鼻を鳴らして言いました。
「太陽が1個しかないやつの発想だな。
2つの太陽は、
先に上がったほうから順に沈むとは限らない。
途中で順番が入れ替わり、
あとから上がったほうが先に沈むこともある。
入れ替わる途中で2つが完全に重なって
見分けがつかなくなることもある。
その入れ替わりが日の入りまでに
何回も起こることもある。
そしてきょう先に上がった太陽が、
明日も先に上がるとも限らない」
太陽が空を通る経路を「黄道」ということは、
みなさんは中学校の理科で習っています。
太陽が1個なら、黄道はもちろん1本で、
南の空を中心に半円を描きます。
これは地球の公転軌道がつくる軌道面が、
つねに太陽の自転に平行だからです。
ところが、
太陽が2個ある場合はお互いが回りあう回転面と、
惑星の軌道面は斜めに交わっているのが普通です。
すると惑星からは2個の太陽の動きを
斜めに見ることになるので、
見かけの動きがとんでもなく複雑になるのです。
もはや黄道はぐちゃぐちゃになってしまうでしょう。
「だから日の出だけ定義してもだめで、
2つの太陽がどのような規則で動いているのかを
知らなければならないのさ。
そこで必要になるのが、
この法則だ。
ケプラーは太陽系の惑星の動きを知る法則として発したが、
これは連星にも使える。
お互いが回りあっている連星は、
一方が一方を公転しているとみなせるからだ。
恒星どうしのおおまかな距離Rがわかれば、
公転周期Tがわかり、
2つの太陽の動きを予想することができる。
つまりこれは、宇宙普遍の法則なのだ」
ヨーダはもう一度、
ケプラーの第3法則を書いた紙を広げました。
R3/T2=M+m
「さっきはMを太陽の質量とし、
mを惑星の質量として無視したが、
今度はそれぞれを太陽の質量と考える。
mも太陽なのでMと同じ大きさとみなし、
M=m=1とする。したがって右辺はM
+m=2だ。また、左辺のRは、
今度は2つの太陽の距離だ。
なんとかそれを知ることができれば、
公転周期Tを求めることができる。
試しに計算してみよう。
たとえばR=0・1AUだと推定できたとする。
AUはさっきも使った地球の『天文単位』だ
(太陽と地球の平均距離:1AUは
1495億9787万700 m)。
すると、
Tは地球の『1年』の単位でいえば
約0・022年=約8日となり、
2つの太陽は約8日で公転し、
元の位置関係に戻ることがわかる。
おおまかにいうと、
2つの太陽は、5日間は横並びで、
ただし距離は日ごとに縮まる。
そして1日だけ重なり、
次の1日は前後が入れ替わり、
また1日だけ重なる(図3‐4)。
このように、
めちゃくちゃに見える太陽の動きが
予測できるようになるから、
この法則は不可欠なんだ。
さらに2つの太陽の距離を近づけて、
R=0・01AUとしてみると、
T=約6時間となる。
2つの太陽がたった6時間周期で回りあうということだ。
日の出直後は横に並んでいた太陽は、
1時間半後に1つに重なり、
3時間で完全に位置が入れ替わる。
この変化が、
日の入りまでを12時間とすれば4回も起こるわけだ。
あんたには想像もつかんだろう。
だが繰り返すが、
宇宙ではこっちのほうがノーマルなんだ。
それどころか太陽が3つある世界も、
4つある世界もある」
あなたは考え込んでしまいました。
地球人は文明を築いてから長い間、
地動説か天動説かで争ってきました。
ケプラーが法則への道筋を開くまでには、
師匠のティコ・ブラーエが長年、
天体の運行を目視して蓄積した膨大なデータと、
望遠鏡を初めて宇宙に向けた
ガリレオ・ガリレイによる木星の4つの衛星
(ガリレオ衛星)の観測がありました。
そうした長い歴史があってようやく
地球人が目を向けた天体現象が、
ノーマルな惑星では複数の太陽の動きとして
毎日あたりまえのように起こっている。
まるでケプラーの法則を
見つけてくださいと言わんばかりに……。
連星の太陽をもつ人たちは、
毎朝、きょう一日が何時間あるのかを
チェックしているのかもしれません。
地球人には信じられない面倒くささです。
しかし、
そのぶん天文学や数学は、
地球人とは比較にならない速さで発展するでしょう。
そう考えるとなんだか、
地球人の文明がとても頼りないものに思えてきました。
「そうだ、カレンダーの種明かしをしなきゃいけなかったな」
ヨーダの声で、あなたはわれに返りました。
「異なる太陽」による「異なる一日」
「これは『夜がない日』という意味だ」
ヨーダは、あなたが気になっていた日付が
ダブっているカレンダーを広げて、
紙に図を描きながら説明を始めました。
「太陽が2つある惑星では、
2つの場合が考えられる。
惑星が2つの太陽を回る場合なら、
いつも2つの太陽がほぼ近い位置に見えるので、
地球の場合とさほど変わらず、
昼は昼、夜は夜のままだ。
しかし、1つの太陽のまわりだけを回っている場合、
もう一方の位置は複雑になり、
その太陽がどの位置にあるかによって、
昼や夜の様相がまったく変わってくる。
たとえば2つの太陽が離れているときは、
昼間は太陽が1つだけの世界と変わらないが、
夜にはもう1つの太陽が、
地球で見る月と同じように、
明るく見える。
あんたたちが見たこともない『夜中の太陽』だ。
その後、
太陽が次第に接近してくると、
もう1つの太陽も昼間に見えるようになってくる。
では、最も接近したらどうなるか。
一見、昼に重なって見えるだけのようにも見えるが、
片方がちょうど正反対の位置にくる場合が実現する。
2つの太陽の間にちょうど惑星が位置するときだ。
この位置関係は、
上の『夜中の太陽』と同じだけれど、
今度は太陽との位置が圧倒的に近いので、
夜ではなくなってしまう。
日没のあと、
すぐに2つめの太陽が出てくる。
つまり、事実上、夜がなくなり、
2つの太陽により異なる一日が繰り返されることになるのだ」
話のややこしさに、
あなたはついていくのに必死です。
「このカレンダーは、
その期間を表したものだ。
1つめの太陽の日付を『16日』とすれば、
隣に2つめの太陽の日付を『16'日』として並べてあるわけだ」
これもまた、驚くべき話です。
地球にも北極や南極の付近では、
夜でも明るい白夜はありますが、
白夜の場合、
太陽そのものは沈んでいるのですから話が違います。
夜もずっと太陽が輝いていると、
どんな影響があるのでしょうか。
きっと生きものの暮らしぶりも
ずいぶん変わってくることでしょう。
「夜がない日がどのくらいの
期間や間隔で繰り返されるかは、
もちろん2つの太陽の距離によって違う。
三重連星や四重連星なら、
さらに複雑になってくる。
それだけカレンダーも、
多種多様になってくるというわけだ」
さらにヨーダは、
たたみかけるように話を続けます。
「連星でなく、
1つだけの太陽でも変なカレンダーはあるぞ。
たとえば、
ある惑星のカレンダーは、
2年で1日になっている。
最初の1年はずっと昼で、
次の1年はずっと夜が続くんだ。
スペクトル分類でK型やM型の星は低温なので、
そこを回る惑星に生命や水が存在するには、
太陽の近くを回る必要がある。
するとお互いの自転が同期して、
惑星は太陽に同じ面しか向けないようになる。
地球にとっての月と同じだ。
太陽が一年中沈まないので、
一日が一年よりも長い暦になるんだ。
地球のお隣の水星にも、
もし水星人がいたらそんなカレンダーになる」

