記憶はどのようにして
脳の中に保存されるのか?

人の記憶というのは定着しにくく、
変わりやすいものです。
そんな記憶とは一体何なのか、
どうやって保存されるのかについて、
科学をアニメーションで解説する
Kurzgesagtが紹介しました。
記憶は写真やジオラマのように瞬間を
切り出すものではなく、
思い返すたびに少しずつ溶けて
変化することがあります。
記憶を形作っているのは脳内にある約860億個の
ニューロンからなる複雑なシステムです。
脳内ではシナプスと呼ばれる細胞間の小さな
隙間を通じて電気信号を化学物質に変換し、
再び電気に変換してニューロン同士で
情報を結びつけています。
それらは一緒になって数百兆もの接続からなる
ネットワークを形成しています。

数十から数千のニューロンは1つの
集合体として機能します。
それぞれは人間が感じる明暗、
自分がいる場所、肌で感じる物質の感触、
言葉の音など、
知覚する情報のごく一部を処理します。
例えば文章を見た場合、
目は視覚や色に関する集合体を活性化させます。
言語領域の集合体は言葉を解読するために活性化し、
読んだときの感情も信号として送受されます。
これらすべての信号は脳の深い領域で処理され、
今最も重要だと思われるものを強調し、
そうでないものを無視します。
このように異なるニューロンたちが一斉に
発火する現象こそが、
今この瞬間に1人の人間として存在しているという
体験を抱かせるのだと表現しています。

しかし、
これは実体を持たない単なる活動にすぎません。
記憶を保って時間を超越する存在になるためには、
こうした一時的な感覚入力、
一瞬の出来事を、残り続ける物理的なものへと
刻み込む必要があります。
脳が記憶を永続化させるとき、
過去をどう保存するかという競争が起こります。
人間が何かを体験するとき、
脳の中で活動している集合体は1つではありませんが、
脳はすべての情報に注意を向けることができないため、
どの瞬間にも1つの集合体が勝利して
脳によって最も重要だと判断されます。
例えば文章を読んでいる場合、
文章を処理している集合体が最も活発であり、
勝利しています。

勝利した集合体のニューロンは変化しやすくなり、
互いの結び付きが強くなる化学物質に包まれます。
これによってシナプスが強化され、
脳の記憶センターであり司書でもある海馬が
活性化されます。
海馬の正確なプロセスは完全には解明されていませんが、
海馬は設計図を作り、
集合体のおおまかな構成を保存すると考えられています。
これが「記憶」です。

記憶は脳のさまざまな領域にまたがる
何百万ものニューロンによる活性化のパターンであり、
このパターンのどこか一部を活性化するだけで、
集合体全体が発火するようになります。
こうして人間は過去の瞬間を
思い出すことができるのです。
しかし、この記憶は非常にもろく、
一時的なものです。海馬は設計図を保持していますが、
強化されなければ集合体は薄れていき、
シナプスも再び弱まります。
そのため、
人間は人生のほとんどの瞬間を忘れてしまいます。
過去を本当に記憶するためには、
その集合体は生き残りをかけて戦わなければなりません。
その方法はたくさんありますが、
1つは「新奇性」です。
もし誰かがいつものようにポッドキャストを
聞きながらバス停まで歩いていたとすると、
その体験で生じた集合体の信号は
弱すぎて消え去ってしまいます。
しかしある日、
カラスとリスが木の実を巡って争っているところへ
ネズミが現れて横取りしたのを見たとしたら、
その新奇さだけで集合体は強く発火します。

もう1つは形成された記憶を何度も
再活性化することです。
その動物たちの争いについて一日中考えたり、
その奇妙な出来事をみんなに話したりすると、
脳により深く刻み込まれます。
これは何かを学ぼうとするときに大量の
反復練習をするのと似ています。
そして記憶を定着させる大きな方法の1つが、
感情を抱くことです。
感情は、
人間の行動を導く非常に強力な仕組みであり、
数億年前に進化しました。
危険を避け、食べ物を探し、
繁殖するよう人間を動機付けます。
何かを強く感じるたびに、
それが正しいかどうかに関係なく、
脳は「これこそが生存にとって重要だ」と判断します。
だからこそ、
人間にとって最も強烈な記憶の多くには
強い感情の色合いが含まれるのです。
好きな人の前で愚かなことを
してしまったときの恥ずかしさ、
飼い犬が死んだときの打ちのめされるような悲しみ、
初めて自分の子どもを抱いたときの
圧倒的な愛情などです。

記憶の定着の多くは睡眠中に起こります。
海馬は集合体を何度も何度も再生し、
それを強固で取り出しやすいものにします。
そして最終的に、
人間は本当の長期記憶を手に入れます。
ところが、
記憶を思い出すことで記憶が
変化してしまうことがあります。
先ほどのカラスとリスの体験を記憶したとき、
疲れていて、
仕事前で少し機嫌が悪かったと仮定します。
しかし、
その体験を友人たちに語ったときに
楽しい気分になっていた場合、
その感情が記憶にすり込まれることがあります。
体験を語り終えると脳にあった記憶のイメージが変化し、
今度は新しい形になっています。
次にその体験を思い出したとき、
実際に体験したときよりもずっと面白い
出来事として記憶しているかもしれません。

このように、
脳は記憶を取り出すたびに新しい情報を
付け加えたり一部を忘れたりします。
たとえ自分にとって重要で絶対に忘れないと
思っている記憶でさえ、
時間の経過と共に他の記憶と結び付いて
元の体験は少しずつ失われていくことがあります。
何かをよく覚えているからといって、
その記憶が正しいとは限らないことを意味します。
これは、
セラピーが役立つ理由でもあります。
安全な環境の中でつらい記憶を思い出すことで、
脳を変えていくことができるからです。

「思い出すということは、動画の再生ボタンを
押すだけの作業ではありません。
記憶は過ぎ去った瞬間を何度も
繰り返し体験できる
魔法のようなものですが、
あなたの『注意』というスポットライトを浴びるたびに
少しずつ溶けて変化していく
可能性があります」と解説しました。