2019年にスタートした本連載
「Innovative Tech」は、
世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を
独自視点で厳選、解説する。
執筆は研究論文メディア「Seamless」
(シームレス)を主宰し、
日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。
韓国科学技術院などに所属する研究者らが
とある酵素が加齢に伴って蓄積する特定の
RNA(リボ核酸)を分解し、
生物の健康長寿を促すメカニズムを
解明した研究報告だ。
人間には、DNAと並ぶ生命の基本的な分子・
RNAが備わっている。
DNAが遺伝情報の設計図であるのに対し、
RNAはその情報を写し取って実際に
タンパク質を合成する際の
指示書のような役割を担っている。
生物の細胞内には、
このRNAの仲間で「環状RNA」
(circRNA)と呼ばれるリング状のものが存在する。
環状RNAは通常のRNAと違い、
両端がつながった輪の形をしており、
頑丈で分解されにくい。
そのため、
年をとるにつれて細胞の中にごみのように
蓄積していく性質がある。
これまでは環状RNAが老化にどのような
影響を与えるのかは十分に解明されていなかった。
しかし今回の研究では、
線虫から哺乳類まで、
生物の体内に広く存在する「RNASEK」
(リボヌクレアーゼκ)という酵素が環状RNAを分解し、
加齢による蓄積を防いでいる他、
その現象が生物の健康寿命に
影響していることが確認できた。
酵素RNASEKが加齢とともに減少すると環状RNAが
細胞内に蓄積し老化が進むことを、
線虫とマウス、ヒトまで共通のメカニズムとして示した概略図
研究チームは実験を通じて、
RNASEKが環状RNAを切断する
働きを持つことを突き止めた。
細胞が強いストレスを受けると細胞内に
ストレス顆粒という構造が形成されるが、
環状RNAはここに集まる性質がある。
老化が進んだ線虫を用いた実験では、
RNASEKがHSP90と呼ばれるタンパク質と
協力して働くことで、
ストレス顆粒内で環状RNAが有害な塊として
凝集するのを未然に防いでいた。
生体内では加齢に伴ってRNASEKの量が
減少していくため、
分解されずに残った環状RNAが増加していく。
線虫での実験では、
RNASEKの働きを維持させることで、
寿命が延び、
健康な状態を長く保てるようになることも分かった。
同様の仕組みは、
線虫だけでなくヒトの培養細胞や
マウスでも機能しており、
進化の過程で保存されてきた
老化防止メカニズムであることも示唆している。