読者の中にも「若返りの泉」を
探している方もいるかもしれない。
だが、鎮静剤や美容整形手術では、
若返りの夢はかなえられないようだ。
若さの秘訣は、
実は思考様式や
生活習慣の中にある。
仕事によるストレスは、
実際の年齢以上に人を老け込ませかねない。
20代から30代にかけて、
疲労が絶えない生活を送りながら
ストレスに向き合っていると、
体を構成する細胞に変化が生じて、
老け込みや燃え尽き、
早死につながるおそれがある。
高齢でも、
若い人に匹敵する認知能力を備える
「スーパーエイジャー(superager)」になるために、
若いうちから実行すべき生活習慣が、
科学者によって明らかにされている。
長生きし、
長く働けるようになるこれらの生活習慣は、
単に睡眠や食事に注意し、
運動をする、といったものにとどまらない。
「スーパーエイジャー」化を阻む、
考え方の悪いクセ
マックナイト脳研究財団(MBRF)の調査では、
米国人の3分の1が、
通常の脳の老化について十分な
情報を得ていないことがわかった。
その一方で実に87%の人が、
年齢を重ねるにつれて、
加齢に関連する記憶力の低下や
脳機能の低下を実感し、
懸念を抱いていることも明らかになった。
しかしこうした能力低下は、
年齢によってのみ起きるとは限らない。
実は、ストレスによる衰えや、
ストレスへの対応の仕方が、
実年齢よりも若々しい心身を保てるか、
逆に老け込んでしまうかを
分ける要因になっている。
心にかかるストレスの重荷を背負うのは、
他ならぬ「体」だ。
顔面の筋肉が動くことによってできる、
眉間の深いシワや額の横ジワは英語で
「worry line(心配の線)」と呼ばれるが、
これにはれっきとした理由がある。
これは、
抑え込んできたストレスが
体に現れているサインなのだ。
ノーベル生理学・医学賞受賞者の
エリザベス・ブラックバーンと、
健康心理学者のエリッサ・エペルの両氏は、
私たちの寿命やキャリアを縮める、
否定的な思考の悪影響について研究を行なった。
その結果は、
両氏の著書
『細胞から若返る!テロメア・エフェクト
健康長寿のための最強プログラム』
(邦訳:NHK出版)にまとめられている。
両氏は、
テロメア(染色体の末端部分にある構造で、
染色体の端を守る「キャップ」のようなもの)が
細胞の老化スピードを決めること、
さらには、
これが人の寿命や健康に与える
影響について解説している。
テロメアが長くなると、
細胞レベルで老化プロセスがスローダウンし、
寿命が長くなり、
より長く働けるようになるという。
一方、
テロメアが一定の長さより短くなると、
その細胞は増殖を停止し、
老化する。
ブラックバーンとエペルの両氏は、
テロメアの短縮につながる5つの
有害な思考パターンを特定した。
これは、早期の老化や、
キャリアの終了にもつながるものだ。
1. 他の人を否定的に捉えがちな傾向:
ふつふつと湧く怒りを溜め込んでいたり、
頻繁に「他の人は信用できない」
「ずっと攻撃されている」
といった思いを抱いたりしていると、
テロメアが短くなる。
これは、
心臓血管系の病気や代謝に関する疾患、
さらには早死につながるとされている。
2. 悲観主義:
人生のネガティブな面ばかりを
見たがる傾向は、
テロメアの短縮につながる。
3. 反芻するクセ:
交際相手との口論を何度もプレイバックするなど、
気がかりなことを頭の中で繰り返す
行為がこれにあたる。
こうした行為によるストレスは、
そうする理由がなくなったあとも、
体に長いあいだ残り、
心拍数の上昇や高血圧の長期化につながるほか、
「ストレスホルモン」とも呼ばれる
コルチゾール値の上昇などを引き起こす。
この状態が長引けば、
テロメアの短縮や老化の進行に関連して、
うつ状態や不安な心理状態が
引き起こされるおそれがある。
4. 思考の抑圧:
ネガティブな考えや気持ちを
抱くことを意識的に避ける、
あるいは抑圧することも、
テロメアの短縮につながるとされている。
5. 心の迷走(マインド・ワンダリング):
心が迷走すると、
「今、ここ」に集中している状態よりも、
ストレスが高まる。
こういう時には、
まだ支払いを済ませていない請求書や
未完成のプロジェクトについて気をもみがちだ。
こうして生まれたストレスにより、
テロメアが短くなるおそれがある。
「スーパーエイジャー」
になるために心がけたい
8つの生活習慣
神経科学者で
The Clinically Proven Plan to Age-Proof
Your Brain and Stay Sharp for Life
(無敵の脳:脳を老化から守り、
一生シャープな頭脳を保つための、
臨床で実証されたプラン)』の著者でもある
マジッド・フォトゥヒ博士は、
「スーパーエイジャー」になるために、
今すぐ実践できる8つの生活習慣を教えてくれた。
スーパーエイジャーとは、
実年齢より何十歳も若い人と同等の
認知能力を持つ人を指す言葉だ。
フォトゥヒ博士の健康プランのユニークな面の一つは、
1日の始まりと終わりに、
ポジティブなことに焦点を当てる点が挙げられる。
1. ポジティブな期待を持って1日を始める。
このアプローチは、
前述のテロメアに関する研究結果とも結びつくものだ。
「今日はいい日になる」という期待を持っていると、
脳がポジティブな出来事に気付きやすい態勢になり、
喜びや意義を見いだすチャンスを探すようになる。
2. 瞑想でストレスを減らし、集中力を高める。
静かな場所を見つけてゆったりと座り、
時間をかけて深く呼吸をすることを、
フォトゥヒ博士は勧めている。
この際には、
息を吸う時に1から6まで、
吐く時にも6まで数えると良いという。
3. 命がかかっていると自覚して、
体を活発に動かす生活を心がける。
フォトゥヒ博士によると、
運動はスーパーエイジャーにとっての
「若返りの泉」だという。
運動は、記憶や学習、意思決定
感情の制御に関わる脳の領域を
拡大させる効果があるからだ。
4. ジャンクフードの摂取は
最小限にして、脳を守る。
加工度が高く糖類が多く含まれた食品は、
脳内の炎症を促進し、
活力減退を招き、
脳細胞間の信号伝達を妨げ、
ブレインフォグの一因となる。
さらには、
脳の萎縮につながることもある。
5. 1日1回、生産性だけでなく、
意義を感じられることを実行に移す。
フォトゥヒ博士は、
意義を実感できる瞬間を探すようにとアドバイスする。
具体的には、
誰かを助ける、
創作活動をする、
祈りを捧げる、
誰かを幸せにする、
あるいは自分が思い入れのある
事柄に貢献するといったものだ。
6. 少しだけ努力を要することを毎日試す。
新しい言語、
ダンスのステップ、
楽器、
新たな趣味など、
新しいことを学ぶと、
脳内の神経細胞に新たな接続ルートが
生まれる効果が期待できる。
7. 睡眠時間を「脳のリセットボタン」
だと考えて、しっかり確保する。
ぐっすり眠り、
しっかり休息がとれたスーパーエイジャーの脳は、
世の中に起きていることをより
前向きに解釈できるようになり、
困難な課題にもへこたれない
レジリエンスを持つことができる。
8. 意義ある出来事や、
小さな成功を思い出して1日を締めくくる。
心地よいやりとりや成功、
感謝されたことなど、
1日の仕事の中で起きたポジティブな
出来事を思い返すことで、
神経回路が強化され、
脳が自動的にポジティブな
経験に目を向けるようになる。
研究者自身が実施する、
「スーパーエイジャー」
になるための6つの習慣
フォトゥヒ博士は、
「スーパーエイジャー」になる可能性を
上げるために自身が日々実行している
6つの習慣を教えてくれた。
しかも博士によれば、
これはわずか3カ月で誰でも達成できるという。
1. 有酸素運動:
博士は週あたり60~80マイル(約96~128km)自転車に乗る。
継続的な有酸素運動は、脳への血流を増やし、
記憶をつかさどる海馬の成長を促進する。
2. 抗炎症効果が大きい地中海式ダイエット:
博士は、全粒穀物や野菜、
脂肪分の少ないタンパク源、オリーブオイルや
健康的な油分を取るように心がけている。
反対に、
脳の炎症を増大させる超加工食品や過剰な糖分、
精白された炭水化物は避けているという。
3. オメガ3脂肪酸(DHAとEPA):
これは、
博士が日常的に推薦している唯一の
サプリメントだ。オメガ3脂肪酸については、
脳の構造や認知レジリエンスの向上に
つながるとする強力なエビデンスが存在する。
他のサプリメントでは、
そこまでの根拠がないものが大半だという。
4. 新しいことを試して、
常に認知能力を鍛える:
博士は、妻と一緒に「数独」を解き、
ダンスのレッスンを受け、旅行に出かけ、
新たなスキルを学ぶことを習慣づけている。
受け身の「脳トレ」ゲームには効果がなく、
課題や新しく学ぶことに効果があるという。
5. 日常生活のなかで、
「脳に摩擦を与える」
「摩擦への耐性を最大化する」行動を、
意識的に実行する:
GPSをオフにし、計算機アプリを使わず、
エレベーターの代わりに階段を使う。
これらはどれも、
リアルタイムの問題解決や、
記憶の活用を促す行動だ。
6. 睡眠とストレス管理:
博士は、
コルチゾール値を抑えるために、
質の高い睡眠とストレス軽減を最優先している。
慢性的なストレスは、
脳の記憶中枢にダメージを与えるからだ。
現代の「スーパーエイジャー」たち
「今の50歳は昔の30歳」という格言を
耳にしたことがあるはずだ。
加齢に関する社会の認識は、
もはや「時代遅れ」になっている。
それは、
科学の進歩に認識が追いついていないからだ。
今どきのスーパーエイジャーはより若く、
健康になっていて、
70代や80代になっても仕事を続け、
約30年前にあたる1993年時点での
同年代の人たちを上回る実績を上げている。
年齢を重ねてから、
最高の結果を出しているケースもあるほどだ。
体と認知能力の健康、筋力、歩く速さ、
反応速度、発語の流暢さ、
論理的思考や作業記憶に関して、
30年前に同じ年齢だった人たちを
大幅に上回っていることが、
明らかになっている。
全米2位の退職者向け
金融サービス企業であるEmpower(エンパワー)の
調査では、米国人の58%が、
退職後も労働市場にとどまる計画を立てており、
期限を設けずに働く選択肢も排除しないと回答している。
回答者たちは、
退職後も働く理由として、
個人的な満足感を得るため(41%)、
目的意識を維持するため(37%)、
金銭的なニーズ(40%)を挙げている。
比較的若い世代の働き手は、
退職計画に副業を組み込んでいる。
スーパーエイジャーになれるような
生活習慣を若いうちから身につけておけば、
いざ退職する年齢になっても、
きっとこれまでの世代より健康的で、
活力に満ちあふれているはずだ。
<参考:Bryan Robinson, Ph.D. | Contributor>