図1 ミトコンドリアの透過型電子顕微鏡写真と一般的なイラスト例
ところが近年、
細胞内にあるミトコンドリアの「真の姿」は、
私たちが教科書で学んできたものとは
ちょっとイメージが違うことが明らかになってきました。
命とは何か?「細胞」から見えてきた命の正体⑩で
紹介した「生体のエネルギー通貨」
ATPの生産についてお話しする前に、
まずは最新のミトコンドリア像をご覧いただきましょう。

画像①は、
細胞内の狙ったものだけを染色して光らせる、
「蛍光顕微鏡」という技術で、
ふたつの細胞を撮影した画像です。
中央に見える青い円が核で、
その周囲に広がる無数の赤い糸のようなものが、
すべてミトコンドリアです。
実はミトコンドリアは分裂と融合をくり返しており、
ひとつの細胞内でもさまざまな
形状をとることが明らかになっています。
長く伸びた糸状になることもあれば、
豆のような形になることもあるというわけです。
こうした活動は
「ミトコンドリア・ダイナミクス」と呼ばれ、
盛んに研究されています。
図1の透過型電子顕微鏡で観察されている
「ヒダのついた楕円形」は、
躍動するミトコンドリアの一部を切り取った
「断面図」だったのです。電子顕微鏡は
光学顕微鏡よりも微細な構造を可視化できると
命とは何か?「細胞」から見えてきた命の正体⑧
でご紹介しましたが、
基本的にはサンプルの一断面しか観察できません。
ひとつのミトコンドリアを一本のソーセージにたとえるなら、
「豆のような楕円形」は、
それを輪切りにした断面を
見ているようなものだったのです。
学校で習う細胞のイラストは理解を助けるために
簡略化されているとはいえ、
まさに教科書が書き換わるほどの違いです。
ミトコンドリアの姿ひとつとっても、
「わかっているようで、実はよくわかっていない」
ことが生命科学の世界にはいかに
多いかということを、改めて痛感させられます。
ミトコンドリアは緑色ではなかった?
さらに今回の取材を通じて、
ミトコンドリアの「色」についても個人的に
びっくりさせられたことがありました。
何となく、
教科書や参考書に載っている
ミトコンドリアのイラストは「緑色」で
描かれていた記憶があります。
みなさんもそうではないでしょうか?
そのため、
ミトコンドリアのCGを制作するのにあたり、
一般的なイメージどおりに
緑色で描こうと考えていました。
ところが専門家のみなさんに取材を
進めるうちに「どちらかと言うと、
赤褐色です」という指摘がありました。
ミトコンドリアに含まれている
「シトクロムc」という物質が赤褐色だというのです。
ただし、
細胞内のミトコンドリアは非常に小さいため、
そこに含まれる赤い色素が肉眼で
確認できるほどの量はありません。
基本的には、
他の細胞内の物質と同様、
ほぼ透明に見えます。
それでも、
内部に赤い色素が含まれていると知った以上、
それに準じてCGは赤褐色で描くことにしました。
こうして「まるで明太子のような」姿をした
ミトコンドリアが誕生したのです(画像②)。

画像② 細胞内の発電所ミトコンドリア(CGイメージ)。
内部ではタービンのような装置が高速回転し、
細胞が活動するエネルギー源となるATPという分子
(写真では光の粒子)が作り出されている。