「熱中しているものがない」のは “生物”としては普通のこと  心に火がつかない心理の正体は


2025/9/17

「熱中しているものがない」のは “生物”としては普通のこと  心に火がつかない心理の正体は

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「熱中しているものがない」のは

“生物”としては普通のこと 

心に火がつかない心理の正体は

 
 
 
 
燃えられない症候群 
 

「努力しているのに燃えている実感がない」

「昔は夢中になれたのに、

今はその感覚を取り戻せない」。

 

そうした状況に置かれている人は、

決して珍しくありません。

 

7割の人が燃えられていない

 

燃えていてバリバリと仕事や家事、

表現活動に打ち込むなどして、

大きな成果を出している人は輝いて見えます。

 

 

しかし実際には、

燃えられない人は現代社会では多数派なのです。

 

アメリカのギャラップ社による2025年の調査では、

従業員の仕事や職場に対する

積極性や熱意を反映した

「従業員エンゲージメント」において、

 

日本はわずか7%で、

世界平均の21%を大きく下回っています。

 

 

燃えられないのは、仕事だけではありません。

 

博報堂生活総合研究所による2024年の調査では、

「大好きで熱中していることや、

はまっている物事がある」と

答えた人の割合は28%でした。

 

つまり、

約7割の人は「熱中している

物事がない」ということになります。

 

 

あなたが「燃えられない」と感じているなら、

それはむしろ「普通」のことなのです。
 

では、なぜこれほど多くの人が

燃えられないのでしょうか。

 

私たちを燃えられなくしているものの

「正体」は何なのでしょうか。

 

 

「本当は何かに燃えたいのに、

なぜか心に火がつかない」と感じるとき、

それはあなたの意思が弱いからではありません。

 

 

脳の「動けない仕組み」が

働いているからかもしれません。

 

 

脳は変化や不確実性を本能的に避けようとします。

 

新しいことを始めるより、

今のままでいるほうが「安全」だと判断するのです。

 

 

ですから、

燃えられないのは、

「動きたい心」と「動けない脳」が

せめぎ合っている状態ともいえます。

 


 

『燃えられない症候群』(サンマーク出版)より

 

『燃えられない症候群』

 

 

この問題を解き明かすためには、

次の2つの視点が必要です。

 

 

・人間という生物の仕組み(数十万年前から変わらないこと)


・現代社会の構造(この数十年で変わったこと)
 

 

まずは①「人間という生物の仕組み

(数十万年前から変わらないこと)」について、

詳しく説明していきましょう。

 

 

私たちの心は数万年進化していない

 
 

ここで役立つのが、

「進化心理学」という学術分野の考え方です。

 

これは、人間の心理を進化論の

観点から理解しようとするものです。

 

 

「進化」とは、何万年、

何十万年もの時間をかけて

ゆっくりと進んでいくものです。

 

 

猿人のアウストラロピテクスは

約200万年もの間、ほとんど進化しませんでした。

 

 

私たちホモ・サピエンスの誕生は、

約20万~30万年前とされています。

 

 

一方で、

人間の文明が大きく発展したのは、

ここ数千年ほどのごく最近のこと。

 

 

この変化のスピードに、

生物としての進化が追いつくのは到底不可能です。

 

 

ですから、

進化心理学では、

「人間の心と体の仕組みは旧石器時代から

変わっていない」と考えます。

 

旧石器時代とは、

人類が狩猟採集生活をしていた時代です。

 

 

 この前提は、

科学的な研究で証明されています。

 

 

現代人にとってもイメージしやすい例を挙げましょう。

 

「運動」と「自然」です。


 

ボストン大学医学部のクラフトと

パンナの研究では、

 

運動がうつ病の改善や幸福感の

向上をもたらすことが神経伝達物質や

心理学的側面など多様な角度から

論じられています。

 

 

他にもさまざまな研究で、

運動には幸福感を高める効果が

あることが明らかにされています。

 

 

これらのことも、

旧石器時代までの人類の生活に由来します。

 

 

 

旧石器時代は、

現代のように安全な住居で休んでいるだけでは

生きていけない環境でした。

 

 

さまざまな危険から身を守るには、

ある程度の体力や筋力は必須です。

 

だから、

運動によって体力や筋力がつくと、

生存競争において有利になるため、

「運動を喜ぶ脳」に進化したのです。

 


 

なぜ運動は疲れるのに気持ちいいのか?

 

人間は気持ちいいことはしたくなるし、

つらいことはしたくない。

 

根本的にそういう仕組みになっています。

 

運動をすると気持ちよくなる→

強い体が持てる→

生存競争で有利になるという、

 

生物的な〝好循環〟

 

のプログラムが私たちの脳に

組み込まれているのです。

 

 

現代でも広く知られている

「運動によって快感を得られる現象」があります。

 

 

それが「ランナーズハイ」です。

 

走りはじめはキツくても、

ある程度の距離を走り続けることで、

快感や高揚感を覚えるようになる現象です。


 

私たちの祖先は、

狩りや採集のために広い範囲を歩き、

走り、

長時間体を動かさなければ

生きていけない環境にありました。

 

 

もし、

快感を覚えずにただ疲労だけを感じていたら、

長距離を移動することはできなかったでしょう。

 

 

そこで、

ある程度体を動かし続けると、

エンドルフィンやエンドカンナビノイドといった

「脳内麻薬」と呼ばれる物質が分泌されます。

 

 

これらの物質によって疲労感がやわらぎ、

気持ちよさや高揚感を覚えられる

ようになったと考えられています。

 


 

つまり「ランナーズハイ」は、

単なる偶然ではなく、

 

生き残るために体を動かし続けられるよう

進化がつくり上げた、

自然のご褒美システムなのです。

 

 

ご褒美は、

人間の行動のモチベーションを

高める大きな要因の1つです。

 

 

運動と同じように、

「自然」に対する私たちの反応も、

旧石器時代の記憶が関係しています。

 

 

 

<参考: 堀田秀吾. 言語学者(法言語学、心理言語学)> 

 

 




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