年を取ると、
見た目の若さ・美しさが衰えていく一方で、
おしゃべりな人間、話のうまい人間のほうが
モテるような気がします。
それは男性だけでなく、
女性もそうなのではないかと思うのですが。
中尾:ええ、そうですね。
和田:見た目もさることながら、
話の内容が面白いとか、
伊達に年を取ってないなと思わせられるかどうかで、
年を取ってからの魅力というのも違いますよね。
そうした話の内容の面白さについては、
脳のなかの前頭葉といわれる部分の
働きが大きく関与しているといわれています。
つまり、
物知りな人というのは側頭葉が発達していると考えられます。
ですから言語機能が非常に高い。
また、計算が速い人は頭頂葉が発達しています。
これらに対して前頭葉というのは
クリエイティヴな能力を司る部分です。
意外性への対応能力、
応答可能性のようなものもこの前頭葉が
大きな役割を果たしています。
ですから、前頭葉の働きが悪くなると、
前例を踏襲する思考パターンになりがちですし、
新しい冒険もしなくなります。
クリエイティヴなことを思いつかないのです。
いわば、
前頭葉が意欲を司ると言ってもいいでしょう。
ここが大事なポイントなのですが、
残念なことに、
この前頭葉は脳のなかでも加齢とともに
最も先に萎縮が進む場所なんですよ。
結局、前頭葉の機能が低下してくると、
意欲が落ちてくる。その結果、
足腰も使わなければ頭も使わない。
身体は衰えて、ヨボヨボになるし、
認知症にもなりやすくなる。
「いつも」のルーティンから離れた
想定外な行動をあえて起こしてみる
中尾:前頭葉には鍛え方などあるのでしょうか。
和田:前頭葉を鍛えるには、
なるべく想定外なことをわざと自分に起こすんですね。
前頭葉が衰えると想定外なことを避ける傾向にあります。
行きつけの店しか行かなくなるとか、
同じ著者の本しか読まなくなるとか。
服装ひとつとっても、
自分が黒が似合うと思ったら黒しか着なくなってしまう、
とか。とかく冒険することを避けるようになってしまう。
中尾:人との接し方もそうですね。
同じ人としか会わずに、
新しい出会いを求めなくなる。
和田:おっしゃるとおりです。
あるいは人と話していても意見が
違うといやだという気持ちになってしまう。
和田:新しい意見や異なる意見を取り入れる
キャパシティがなくなるのです。
反対に前頭葉が発達している人は
意見が違う人と上手に付き合ったり、
あるいは上手に喧嘩や言い合いが
できたりするわけですね。
中尾:なるほど。
和田:ですから、前頭葉を鍛えるには、
普段、前頭葉を使わないような生活から
少しずらしてみることが重要です。
行きつけの店にしか行かないとか、
同じファッションしかしない、
同じ著者の本しか読まないというような
「いつも」のことから、あえて外れてみる。
そうやって意外なこと、
想定外なことをしてみると、
前頭葉が次第に活性化されて
いくのではないかなと思います。
「もっと他人とぶつかったほうがいい」
中尾:日々、新しいことをしていると、
前頭葉が鍛えられるということですね。
和田:そうだと思います。
しかし、日本人の場合、若いのに全然、
前頭葉を使っていない人が多いなと思うのです。
コンフリクト(対立や衝突)を嫌って、
上の言いなりになったり。
あるいはテレビやネットの
情報をそのまま受け取ったり。
中尾:最近、とくにそう思います。
みんな、
面倒を避けているような印象を受けます。
和田:そうですね。どうも日本人は昔に比べて、
相対的に喧嘩をしなくなってきたような気もします。
中尾さんの世代よりももっと上だと思いますが、
作家の野坂昭如さんと
映画監督の大島渚さんの
大喧嘩の映像がとても記憶に残っていますけども、
侃侃諤諤と意見を主張し合って、
みんな闘っていたように思いますね。
そのなかから濃厚な人間の
コミュニケーションがあったようにも思います。
中尾ミエ・和田秀樹 著
中尾:そうですね。そんな時代に比べて、
今は世の中全体で物をはっきりと言わなく
なっている風潮があります。
言えることの範囲を自分で狭めてしまっているので、
やることなすこと縮小してしまっているように思います。
和田:ええ、そういう風潮は前頭葉には
本当に悪いと思うのです。
余計なことを言ったら嫌われてしまう。
それで新しいことにチャレンジ
したりするのに躊躇するならば、
それは前頭葉にいちばん悪いですね。
男性ホルモンにとっても悪いと思います。
言いたいことをはっきり言う。
やりたいことをやる。
新しいことにチャレンジしてみる。
それをしないと前頭葉がダメになってしまう。