地球に生命が誕生する以前、
地球の海は無数の化学反応によって支配された、
巨大で無秩序な反応炉でした。
しかしある時点で自己複製が可能な
RNA分子が形成され、
初期生命の誕生につながったと考えられています。
この考えは「RNAワールド仮説」として知られており、
生命の起源において有力な候補となっています。
しかしRNAワールド仮説には弱点がありました。
現在の地球生命は細菌から人間まで全て、
リボソームと呼ばれるRNAと
タンパク質の複合体が翻訳機の
働きを果たしています。
しかしこれらRNAとタンパク質を作るには、
リボソーム自体が必要となっています。
この奇妙な矛盾はRNAワールド
仮説にとって最大の障害でした。
そこでルートヴィヒ・マクシミリアン大学の
研究者たちは以前から、
翻訳において重要な役割をする
RNAの一種「tRNA」と
アミノ酸の関係を調べてきました。
tRNAは遺伝情報が翻訳され
タンパク質に変換される過程において、
要となる重要な役割を担います。
研究者たちがこのtRNAを調べたところ、
通常の4種類の塩基「A・U・G・C」とは
異なる非標準型の塩基が
含まれていることが判明しました。
また、この非標準型の塩基は
どの生物のRNAにも含まれており、
その起源は全ての生物の祖先(LUCA)
にまで遡ることが判明します。
さらに興味深いことに、
この化石のような分子のいくつかは
アミノ酸やペプチドといった
タンパク質の構成要素に結合する
(修飾される)機能があることが判明しました。
そこで研究者たちは、
これら非標準型塩基の位置を工夫
することができれば、
RNAだけでもアミノ酸を重合
できると考え、実験を行いました。
(※両者の鎖は相補的な配列になっており、
自然な結合が可能になっています)
そして研究者たちが双方を混ぜたところ
僅かな熱でt6Aが破壊されて、
そのアミノ酸をmum5Uに結合していた
アミノ酸に渡している様子が確認できました。
またアミノ酸の受け渡しが完了すると、
両方の鎖が乖離して自然に分解していきました。
研究者たちはこのプロセスを
繰り返すことで、
最大15個のアミノ酸を連結させられる
ことを実験的に示しています。
これらの結果は、
翻訳機(リボソーム)を必要とせずに
RNAがアミノ酸を連結して
タンパク質を作れる可能性を示します。
(※タンパク質はアミノ酸の連結によって作られます)
まずRNAが先に作られた
RNAとタンパク質における
ニワトリと卵の問題が解決しました
今回の研究により、
RNAはアミノ酸を独自に重合して
タンパク質を作れることが示されました。
既存のRNAワールド仮説では
RNAと翻訳機(リボソーム)の関係が
ニワトリと卵の関係のように
矛盾していましたが、
実験結果はRNAの生成が先立って
行われたことを支持しています。
また純粋な意味でのRNAワールドは
存在せず、
RNAとタンパク質は常に同じ分子内に
存在したと結論しています。
古代のRNAにも含まれていた非常に
歴史ある塩基には、アミノ酸によって
独自に修飾される機能があり、
結合と乖離の繰り返しによって
アミノ酸を伸長させることができました。
さらに、より長いRNAを用いた実験では、
RNAの複数の地点でアミノ酸の
重合が発生している様子も確認されています。
生命誕生の過程において、
RNAとタンパク質の関係は互いに
影響しあうことで、
生命機能の働きを担う遺伝子や
機能的なタンパク質が誕生したと考えられます。
研究者たちはリボソームなどの
現在の地球生命において翻訳機を担う存在も、
原始的なRNAとタンパク質の
相互作用が積み重なって
形成されたと述べています。
もしかしたら未来の生物の教科書では、
RNAワールド仮説に続いて
「アミノ酸の重合は酵素なしに
RNAだけで起こる」という
一文が付け加えられているかもしれませんね。