「紀元前から」探し始めて、 まだ「たったの51個」… じつは 「偶数しか見つかっていない」完全数の、 じつに「謎だらけ」性質


2024/7/4

「紀元前から」探し始めて、 まだ「たったの51個」… じつは 「偶数しか見つかっていない」完全数の、 じつに「謎だらけ」性質

 
 
 
 
 
 

なんと、

「紀元前から」探し始めて、

まだ「たったの51個」…

じつは

「偶数しか見つかっていない」完全数の、

じつに「謎だらけ」性質

 
 
 

「素数シリーズ三部作」

(『素数が奏でる物語』『素数はめぐる』『有限の中の無限』)で

ブルーバックスを代表する人気著者コンビ・

西来路文朗さんと清水健一さん。

 

最新刊『ガウスの黄金定理』も大好評のお二人が、

新しい「数の世界」を案内してくださいます!

 

今回は、今日6月28日にちなんで、

「6」と「28」にまつわるお話です。

 

この2つの数字に共通するのは、

ともに「偶数」であることと、

ともに「完全数」であること。

 

「完全な数」とは、また大げさな名前ですが、

ピタゴラスやユークリッドに始まり、

オイラーにいたるまで、

名だたる数学者たちを夢中にさせ続けてきた

「謎めいた数」なのです。

 

なにしろ、

まだ「51」個しか発見されておらず、

そのすべてが「偶数」だというのですが……!?

 

 

【書影】ガウスの黄金定理
 

 

今日はなんの日?

 

「○○の日」という名前のついたいろいろな記念日があります。

 

国民の祝日として定められている

「成人の日」「こどもの日」などがありますし、

語呂合わせで2月3日は「ふみの日」、

4月6日の「城の日」など、

たくさんの記念日が考えられています。

 

 

では、今日、6月28日はなんの記念日か

ご存じでしょうか。

 

この日は「パフェの日」とよばれています。

 

プロ野球史上初めてパーフェクトゲーム

(完全試合)を達成した日ですが、

フランス語の「パルフェ」がパーフェクトという

意味があるところから、

英語読みの「パフェ」が広まり、

「パフェの日」というようになったそうです。

 

しかし、6月28日はもうひとつ、

「完全数の日」ともよばれています。

 

こちらの呼び名はあまり知られていないかもしれません。

 

数学的な意味合いからつけられていて、

6と28がともに「完全数」とよばれる

数であることに由来しています。

 

 

完全数のふしぎな性質

 
 

「完全数」とはどのような数でしょうか。

 

6の約数は、1, 2, 3, 6の4つです。

1とその数自身はいつも約数として考えます。

 

6の約数の中で、

6自身を除いた約数を足してみると

 

1+2+3=6

 

となり、「自分自身を除いた約数を足すと、

その数自身になっている」

という特別な性質をもっています。

このような性質をもった数を「完全数」といいます。

 

【図】完全数の説明 6の場合
 
完全数の説明 6の場合

 

6の次の完全数は28です。

 

28の約数で自分自身を除いた数は

1, 2, 4, 7, 14です。これらを足すと

1+2+4+7+14=28

となります。

 

【図】完全数の説明 28の場合
 
完全数の説明 28の場合
 
 

完全数のことを英語でパーフェクトナンバーといいますから、

この意味でも6月28日は期せずして2つの「完全」が

重なった日といえます。

 

ここまでの詳しいことは、

 

こちらの記事

〈偶然にしては、じつに「できすぎ」ている…

「パフェの日」にひそんでいた.

まったく思いもよらない「衝撃の事実」〉を見てください。

 

 

ここでは、

完全数についてもう少し詳しく説明してみましょう。

 

 

 

完全数はなぜ「完全」なのか

 
 

「完全数」という名称は、

古代ギリシャの数学者・ピタゴラスが

与えたといわれています。

 

聖書のある解説者は、

6と28が完全数であることの根拠を、

天地創造が6日でなされ、

月が地球の周りを28日で1周することにあると考えました。

 

 

しかし、聖アウグスチヌスは

「神が6日で世界を創ったから6が完全数なのではなく、

6が完全数だから、

神は世界を6日間で創ったのだ」といっています。

 

1世紀頃までに、

さらに2つの完全数496、8128が見つかっています。

 

古代ギリシャの数学者・ユークリッドは著書『原論』の中で、

 

2ⁿ-1が素数のとき、2ⁿ⁻¹(2ⁿ-1)は完全数である

 

という定理を書いています。

 

実際、n=2のとき、2ⁿ-1=2²-1=3が素数だから、

2ⁿ⁻¹(2ⁿ-1)=2・3=6

です。また、n=3のとき、2ⁿ-1=2³-1=7が素数だから、

2ⁿ⁻¹(2ⁿ-1)=4・7=28

となります。

 

 

このユークリッドの定理より、

2ⁿ-1の形の素数を見つければ、

完全数が見つかることになります。

 

そして面白いことに、2ⁿ-1が素数ならnが

素数であることがいえるので、

素数nについて、

2ⁿ-1が素数である場合を考えればよいことがわかります。

 

 

3の次の素数は5で、2⁵-1=31は素数なので、

3番目の完全数

 

2ⁿ⁻¹(2ⁿ-1)=16・31=496

が得られます。次の素数7について、

2⁷-1=127も素数なので、4番目の完全数

2ⁿ⁻¹(2ⁿ-1)=64・127=8128

が得られます。

 

しかし、ある数が素数であるかどうかを

判定するのは非常に難しく、

5つ目の完全数が見つかったのは

1400年ほど後のことです。

 

7の次の素数11に対し

2¹¹-1=2047=23・89で素数ではないので、

完全数は得られません。

 

次の素数13に対して2¹³-1=8191は素数なので、

5番目の完全数

2ⁿ⁻¹(2ⁿ-1)=4096・8191=33550336

が得られます。

 

 

 

立ちはだかる難題

 

2ⁿ-1の形の数は「メルセンヌ数」とよばれ、

これが素数のとき「メルセンヌ素数」とよばれています。

 

メルセンヌは16世紀の神学者で、

この形の素数を研究したことにより彼の名がついています。

 

 

 

【写真】マラン・メルセンヌの肖像
 
 

 

18世紀の数学者・オイラーは

偶数の完全数は2ⁿ⁻¹(2ⁿ-1)(2ⁿ-1は素数)である

 
 
 
数学のほか、物理や哲学、音楽理論にも
 
 

 

 

2ⁿ-1の形の素数が見つかれば

完全数が得られるのですが、

では、

この式ですべての完全数が得られるのでしょうか。

 

18世紀の数学者・オイラーは

偶数の完全数は2ⁿ⁻¹(2ⁿ-1)(2ⁿ-1は素数)である

 

ことを示しています。

つまり、2ⁿ-1の形の素数を見つければ、

偶数の完全数はすべて得られることが、

このオイラーの定理によって保証されるのです。

 

また、完全数の1の位を見ると、

すべて6か8になっていますが、

これは2ⁿ⁻¹(2ⁿ-1)の形から簡単に示すことができます。

 

偶数の完全数の形はわかっていますが、

偶数の完全数が無数に存在しているか、

いいかえるとメルセンヌ素数が無数に

存在しているかどうかはわかっていません。

 

 

では、奇数の完全数はあるのでしょうか。

 

 

じつは、

奇数の完全数が存在するかどうかはわかっていません。

奇数の完全数は1つも見つかっていませんし、

その存在についての証明もありません。

 

 

ただし、

10¹⁵⁰⁰以下の範囲にはないことがわかっています。

そして、

もし奇数の完全数が存在すれば、

同じ素因数を重複して数えたときに

素因数の個数が101個以上であることや、

最大素因数は10⁸より大きくなることなどがわかっています。

 

 

 

52個目の完全数を探せ!

 
 

完全数を探索する努力は、

ずっと継続して続けられてきました。

 

2ⁿ-1の形の素数を見つければ完全数が見つかるので、

この形の素数の判定法なども研究され、

新しい完全数が見出されていきました。

 

1950年代以降は、

コンピュータによって探索が続けられています。

 

高校生が発見した完全数もあります。

25番目の完全数2²¹⁷⁰⁰(2²¹⁷⁰¹-1)は、

1978年にアメリカの高校生、

ノル君とニッケルさんによって発見されました。

 

ノル君は翌1979年にも、

次の完全数を見つけています。

 

偶数の完全数を見つけることは

メルセンヌ素数を見つけることに尽きるわけですが、

現在では、新しいメルセンヌ素数を見つける意義は

完全数を見つけることそれ自体にあるというより、

大きな素数を見つけることにシフトしています。

 

 

現代社会の情報のセキュリティは

暗号によって守られていますが、

この暗号は大きな素数によって守られています。

 

大きな数を素因数分解する困難さが

暗号の解読を困難にしており、

大きな素数を見つけることは

現代社会の重要なニーズでもあるわけです。

 

 

メルセンヌ数は素数の判定がしやすいことがあって、

大きな素数が発見されたときは、

メルセンヌ素数であることが多いのです。

 

現在、51個のメルセンヌ素数が発見されていますが、

最大のメルセンヌ素数は、

2018年12月に発見された2⁸²⁵⁸⁹⁹³³-1で、

なんと24862048桁の大きな数です。

 

 

したがって、

現在発見されている最大の完全数は

2⁸²⁵⁸⁹⁹³²(2⁸²⁵⁸⁹⁹³³-1)となり、

この数の自分自身を除いたすべての約数の和が、

この数自身になっているはずです。

 

気の遠くなるような話ですが、

実際に計算をして確かめなくても

わかるところが数学の威力です。

 

 

はたして52個目のメルセンヌ素数、

そして完全数を発見するのは誰なのでしょう。

 

6月28日はパフェでも食べながら、

古代から多くの数学者が探求し続けてきた

完全数に思いを馳せてみるのはいかがでしょうか。

 

 

*この記事は、

2021年6月28日に配信したものを再編集したものです。

 

*好評の西来路さん、清水さんによる数学記事、

次回は7月7日公開予定です。お楽しみに。

 

 

 

【書影】ガウスの黄金定理

 

 

  

 
 
 

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