「空気から水生成」を劇的に
早める超音波装置を開発!
エネルギー効率は45倍
世界には、川も地下水も乏しい乾燥地域が多く存在し、
人々は慢性的な水不足に苦しんでいます。
その一方で、
地球の大気中には膨大な量の水分が含まれています。
そのため、
「空気から水を集める技術
(Atmospheric Water Harvesting:AWH)」は、
いろいろな場所で使える
“身近な水源”として大きな期待を集めてきました。
AWHの主なアプローチは大きく2つに分かれます。
1つは、
冷蔵庫のように空気を冷やして
水滴を作る「冷却方式」。
もう1つは、
水をよく吸う多孔質の材料に
空気中の水を吸わせ、
あとから加熱して水だけを
取り出す「吸着・脱離方式」です。
今回の研究が対象にしたのは後者です。
この方式は装置を小型化しやすく、
家庭や小さなコミュニティでの利用に
向くと考えられていますが、
大きな弱点があります。
吸収した水を抽出するのに、
たくさんの熱と時間が必要になることです。
従来の乾燥剤の中には水を手放す温度が
60〜80℃、
ものによっては160℃近くにも達するものがあります。
実際の装置では、
熱として加えたエネルギーのかなりの
部分が材料や周囲の空気を温めることに使われ、
肝心の水の蒸発には使われません。
そこでMITの研究チームは、
この状況を根本から変えるために
、新しい発想にたどり着きました。
「水を蒸発させる」のではなく、
「超音波で水分子を揺さぶって
解放させる」というアイデアです。
研究ではスポンジ素材に空気中の
水を吸わせた後、
超音波装置の上に置いて振動させました。
すると、
従来の装置では数十分から
数時間かかるのに対し、
超音波装置を用いるなら、
わずか数分で水が滴として
飛び出すことが確かめられました。
この方式はエネルギー効率においても
圧倒的であり、
必要なエネルギーは従来方式の
約45分の1という超高効率でした。
これは、
熱方式では避けられない
“蒸発そのものに必要な
エネルギー”を使わないためです。
では、この新しい超音波装置は、
どのように水を抽出しているのでしょうか。
超音波で水を取り出す仕組み
超音波装置がスポンジから水を
振り落とす仕組みについて考えてみましょう。
装置の中心には、
電圧をかけると高速で振動する
「PZT(圧電セラミックス)」のリングがあります。
この上には、
無数の微小な穴が開いたステンレス製の
多孔質金属膜が取り付けられており、
その上に吸水素材を載せます。
スイッチを入れると、
PZTリングは10万ヘルツ前後の
超音波で振動し、
その揺れが金属膜を通じて
吸水素材全体に伝わっていきます。
さらに、
PZT自身が発生するわずかな熱が乾燥を助け、
振動と熱が相乗効果を発揮します。
吸水素材内部では、
水分子が弱く結びついています。
そこに超音波の揺さぶりが加わることで、
この結合がピンポイントで外れ、
水分子が表面に押し出されるように動きます。
MITの研究者は、
この様子を「水が超音波と一緒に
踊っているようだ」と表現しています。
ちなみに、
飛び出した水はそのまま金属膜の
ノズルを通って落下して集水部に集められます。
研究チームは、
この装置を動かす電力については、
小型の太陽光パネルとの
組み合わせを想定しています。
また吸水素材が十分に湿気を吸ったタイミングで、
自動的に超音波抽出が行われる
“自律システム”の実現も視野に入っています。
「熱ではなく超音波で
揺さぶって水を取り出す」という
MITの研究は、
これまでのエネルギー効率の高い
壁を壊すことになるかもしれません。