
「糖質制限」というとダイエットで
取り組んだ方も多いのではないでしょうか。
体のなかで余ってしまった糖質は、
肥満の原因だけでなく、
食後高血糖、動脈硬化やがん、
認知症といったさまざまな病気の
リスクを上げることがわかってきました。
しかし、
単に糖質を減らせばいいかというと、
そうではありません。
糖質はエネルギー源であって
「栄養」ではない
「タンパク質、脂質、糖質は三大栄養素」と
いわれていますが、
実は糖質だけは性質が異なります。
タンパク質と脂質は体を構成する
材料として使われる「必須栄養素」。
しかし、
糖質は必須栄養素ではありません。
そして、
糖質だけが(1型糖尿病の人を除いて)
血糖値を上昇させます。
ヒトという生物にとって
必須栄養素ではない糖質は、
極端な話、なくても生きられるのです。
「栄養」とは生命維持に欠かせないもので、
人体の構成成分となる
タンパク質と脂質は「栄養」なのです。
ビタミン、ミネラルも同様の意味で
「栄養」といえます
(タンパク質、脂質、糖質の三大栄養素に
ビタミンとミネラルを加えて
「五大栄養素」といいます)。
では、糖質の役割は何かというと、
「人体を動かすエネルギー」となることです。
「体を動かすエネルギーである
糖質を制限すると活動できないではないか」
というのは早計で、
外から摂取する糖質の代わりになるものを
人間は持っています。
それが自分自身の「体脂肪」。
体脂肪率2桁は何十万カロリーにも
相当しますから、
日々の活動に必要なエネルギーは十分。
極端なことをいえば、
さらに入れる(食べる)必要はないのです。
朝食は食パン1枚、
お昼はおにぎりやうどん、
夏のお昼は食欲がないので
毎日そうめんという糖質まみれの
食事を続けていれば、
体重はジワジワ増えていきます。
糖質過多の食事では、
糖質をエネルギーに変えるために
必要なビタミンやミネラルなどが不足します。
エネルギーに変換されなかった糖質は
体脂肪として蓄積されてしまうのです。
また、
糖質というエネルギーがひっきりなしに
入ってくるので、
体脂肪をエネルギーとして使う
チャンスもありません。
糖質自体が悪いのではなく、
摂りすぎが害になる
人類何百万年の歴史において、
糖質を安定的に摂取できるようになったのは
農耕が行われるようになった約1万年前。
それ以前の狩猟や採集で食料を
得ていた時代では糖質(甘いもの)は
めったに口にできなかったのです。
実りの季節に頬張った果実は、
どれほど甘くおいしかったことでしょうか。
糖質を欲する・おいしく感じることは
何百万年の歴史を経て人類の
DNAに刻まれています。
本能は糖質を欲するのです。
本能が求めるのだから糖質はおいしい。
多幸感をもたらす脳内物質β(ベータ)
エンドルフィンも分泌され幸せな気持ちになる。
魅惑の糖質を現代は望むだけ食べられる。
しかし、
本能の赴くままに際限なく
糖質を摂取していると、
とてもすべてを消費しきれません。
余った糖はどうなるかというと、
体のなかで「毒」へと変貌するのです。
タンパク質、脂質、糖質の三大栄養素のうち、
タンパク質と脂質は「栄養」、
糖質だけが「エネルギー」です。
もうひとつ、
糖質だけが持つ特徴は
「血糖値を上昇させる」ことで、
ここにもまた厄介な問題が存在します。
糖質たっぷりの食事のあと血糖値が
高い状態が続くことを「食後高血糖」といい、
血液中に増えた糖が
血管を傷つけてしまうのです。
血管を守るため、
血液中の糖は細胞が活動する
エネルギーとして使われます。
蓄えられている体脂肪より、
入ってきたばかりの糖質が優先的に
エネルギーとして消費されるのは
血管を守るためなのです。
糖をエネルギーに変換するのがインスリンです。
しかし、
ビタミンやミネラルなどの栄養が
不足していると変換ができません。
変換できなかった糖はというと、
脂肪として体に蓄えられることに
なってしまいます。
やせるための糖質制限から、
健康寿命を延ばす糖質制限へ
糖質制限以前のダイエットは
「カロリーを減らせばやせる」との
発想だったため、
必然的に食事量を減らすことになり、
我慢を強いられるものでした。
苦労の末にどうにか体重を落としても、
我慢の反動から食べすぎてリバウンド
することも多かったのです。
ちなみにターゲットとなったのが
1gあたりのエネルギー量が
9キロカロリーの脂質。
タンパク質と糖質は同じ4キロカロリーなので
どちらを食べてもよいことになり、
栄養素の働きを無視してカロリーだけで
ダイエットを実践するのはかなり危険です。
一方、
糖質制限は
「太る原因である栄養素(糖質)を
カットする」ので、
食べる量にはこだわりません。
お腹いっぱい食べながらやせられることから、
「満腹ダイエット」というフレーズで
脚光を浴びた面もありました。
ただ、
60歳からは満腹で苦しくなるほど
食べる必要はありません。
そもそも20代、30代ならまだしも、
食後に動けなくなるまで食べられるという方は
少ないのではないでしょうか。
消化吸収器官を無駄に疲れさせないためにも、
60歳からの糖質制限は腹八分目がベスト。
早め、
軽めの夕食後、睡眠時間を挟んで
空腹の時間をつくりだせば、
長寿遺伝子の「サーチュイン遺伝子」の
スイッチを入れられる可能性もあります。
サーチュイン遺伝子とは老化や寿命を
左右する遺伝子といわれ、
活性化させるために有効なのが
「空腹」なのです。
腹八分目は主食を摂らない
糖質制限の得意とするところですが、
タンパク質まで減ってしまっては困るので、
例えば10時と15時など、
適宜タンパク質の間食を入れるのも
おすすめです。
年齢とともに消化吸収力は低下していきます。
例えば、
ゆで卵にしても「がんばれば1個食べられる」と
無理して1回で食べようとせずに、
朝半分、
10時の間食で残り半分という
食べ方にしましょう。
飲食後に代謝に要する時間、
汗や尿・便による損失などを考慮すると、
小刻みな栄養摂取が
60歳からの体に合った食べ方です。