私たちが普段、
当然のように使っている「水」。
だが、
水の専門家である吉村和就氏は、
世界ではいま熾烈な水の争奪戦が展開されており、
私たちが使っている水も、
いつ入手困難になってもおかしくない状況にある、
と警鐘を慣らす。
このたび致知出版社から緊急出版された
一部を紹介したい。
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2025/4/19
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世界80億人が直面する「水不足」、 じつは「生成AI」が“加速”させていた…! 生成AIに「質問を1つする」たびに “がぶ飲み”される「驚きの水の量」 |
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世界80億人が直面する「水不足」、じつは「生成AI」が“加速”させていた…!生成AIに「質問を1つする」たびに“がぶ飲み”される「驚きの水の量」
私たちが普段、 当然のように使っている「水」。
だが、 水の専門家である吉村和就氏は、 世界ではいま熾烈な水の争奪戦が展開されており、 私たちが使っている水も、
いつ入手困難になってもおかしくない状況にある、 と警鐘を慣らす。
このたび致知出版社から緊急出版された 一部を紹介したい。
ある大教育者の予言森信三という人がいる。 「国民教育の師父」と謳われた大教育者であり、 哲学者である(1896-1992)。
戦前に自らが行った授業をまとめた 500ページを超える大著『修身教授録』は、
多くの経営者やビジネスパーソンにも影響を与え、 平成元年の刊行から56刷を数える 驚異のロングセラーとなっている。
その森信三氏が晩年、 弟子の一人に語った言葉がある。
「2025年、日本は再び甦る兆しを見せるであろう。 2050年になったら列強は日本の底力を 認めざるを得なくなるであろう」
この予言めいた言葉を端緒に、 弊社が発刊する月刊誌『致知』で本年、
「二〇五〇年の日本を考える」 という特集を組んだところ、 読者の方々から凄まじい反響を得た。
保守論壇の重鎮である櫻井よしこ氏と 中西輝政氏の対談に始まり、
藤原正彦氏による提言、さらには対米関係、 国土、水、農業、日本語教育、情報技術、 防衛……などなど、
その道のエキスパート15名より、 日本の未来をひらくヒントが熱く語られている。
このたび、 本特集記事をそのまま 題して書籍化したが、
あらためて読み返してみて 一つの言葉が思い起こされた。
「天下の大患は、 其の大患たる所以を知らざるに在り」 という吉田松陰の言葉である。
松陰は幕末期に 「いまの天下国家における大きな心配事は、
その心配事、 深い憂いの理由を知らないところにある」と 嘆息している。そしてこう言葉を続ける。
「苟(いやしく)も大患の大患たる所以を知らば、 寧(いずく)んぞ之これが計を為さざるを得んや」
そもそも大きな憂い事の真の理由を知ったなら、 どうしてそれに対処する計画を 立てないでいられようか、と。
森信三氏の予言の通り、 2025年、 日本は本当に再び甦る兆しを見せるのだろうか。
そして、 2050年になったら列強は本当に 日本の底力を認めざるを得なくなるのだろうか。
本書は、 まずその「大患の大患たる所以」を 知るための一書でもある。
15名の識者による提言は、 それぞれに強烈なインパクトを 与えるものだったが、
私が特に衝撃を受けたのは、 世界における「水」の問題に精通している 吉村和就氏による提言だった。
次項よりその話の一部を紹介したい。
世界で展開される熾烈な「水」の争奪戦私たちが普段、 当たり前のように使っている水。
このありがたさを十分に理解している人は、 いまの日本では少数派かもしれません。
国連加盟国193か国のうち、 自国で豊富な水源に恵まれている国は僅か21か国。
さらに、 蛇口から出てくる水を安全に、 安心して飲める国は、 日本を含めてたった11か国しかありません。
私たち日本人は、 日々潤沢に水を使える環境に浸り切っているため、
そのありがたみを忘れてしまいがちです。
しかし世界ではいま、 年々深刻化する水資源の不足によって、 熾烈な水の争奪戦が展開されており、
私たちが使っている水も、 いつ入手困難になってもおかしくない状況にあるのです。
地球の人口は増え続けていますが、 地球上の水資源の総量は 約14億立方キロメートルのまま変わることはなく、
その97.5%は海水で、 淡水は残りの2.5%%。
そのうち人類が経済的に 使える淡水は僅か0.01%に過ぎません。
現在80億人の人類が、 この0.01%の水を奪い合いながら 暮らしているのが世界の現実です。
私も出席した「国連2023水会議」で グテーレス国連事務総長は、
現在80億人の人口の半分、 40億人が30年以内に水の危機に 直面すると警鐘を鳴らしています。
こうした水不足に拍車をかけているのが、 深刻な水質汚染です。
長らく問題視されてきた工業廃水ばかりでなく、 農業由来、即ち農薬による汚染も拡大しています。
加えて近年問題視されるようになったのが、 マイクロプラスチックによる海洋汚染です。
大量に投棄されるプラスチックごみが 直接海を汚すばかりでなく、
それを取り込んだ魚介類を食べることによる 健康被害が懸念されているのです。
もう一つの大きなリスク要因が、 気候変動です。
ヨーロッパを流れるライン川では、 渇水のため物資輸送の大型船が 一時期運行できなくなりました。
舟運で比較的安価に賄えていた物流を 陸運に転換せざるを得なくなり、 輸送コストが大幅に上昇してしまったのです。
また、 温暖化に伴う海面上昇によって、 エジプトのナイル川では地中海の塩水が ピラミッドの辺りまで遡上して、
国の農業を支える流域の 小麦農家に大打撃をもたらしています。
インドネシアの首都ジャカルタでは、 地下水に塩水が入って使えなくなり、 首都の移転まで余儀なくされています。
日本でも、 2018年夏季に信濃川で11キロ上流まで 塩水が遡上したことがあります。
日本の水道は、 主に河川から引いた水を浄水場に集めて処理し、 供給しているため、
今後塩水遡上がさらに深刻化すれば、 水道水の供給に大きな 支障を来すようになるでしょう。
生成AIが水を「がぶ飲み」する最新トピックスとして見過ごせないのが、 情報通信の問題です。
いまや社会生活に不可欠となったITやAI。
これを裏で支えるデータセンターでは、 オペレーティングコストの約7割を 電気代が占めており、 その内の8割はそこで発生する 熱の冷却に使われます。
これに拍車をかけているのが、 生成AIの登場です。
処理すべき情報量は桁違いに増え続けており、 世界中で約1万3,000の データセンターが稼働しています。
驚くべきは、 我われが生成AIに質問を1つ入力する度に、 約2リットルの水が消費されることです。
質問の答えを導き出すために、 約1万3,000のデータセンターが収蔵する 全データにナノ秒でアクセスし、
全関連データを拾って項目毎に 並べるため膨大な熱が発生し、
これを冷却する際に約2リットルの水が 消費(蒸発)されるのです。
現在、 アメリカにあるデータセンターで 1日に使用される水の量は 約800万トンと言われています。
東京都に住む1,400万人が一日で使う 水道水の量が450万トンですから、 AIがいかに膨大な水を 「がぶ飲み」しているかが分かります。
オレゴン州やカリフォルニア州では、 水道水の3分の1がグーグルやオラクルなどの 巨大IT企業が運営するデータセンターによって 消費されており、
これに反発する住民とのトラブルが 訴訟にまで発展しています。
今後、 次世代の通信システムである5Gからさらに進化した 6Gが導入され、
車や産業機械の自動運転が本格導入されると、 情報通信の高速化、大容量化はさらに進み、
水の消費は爆発的に増加していくことでしょう。
人間の追求する便利さが、 水不足をさらに深刻化させることが懸念されるのです。
逆に言えば、水がなければ国や社会、 企業活動を支える生成AIや 情報通信が成り立たないのです。
300年も前からSDGsを実践していた日本世界の水問題がこのように深刻化する中、 日本の置かれた状況も厳しさを増しています。
東京大学の沖大幹教授の提唱する 「仮想水」という概念があります。
現在、 日本の食料自給率はカロリーベースで38%。 残りの62%を海外からの食料輸入に頼っています。
これは、 その62%の食料生産に要した 他国の水を輸入しているとも言えるのです。 これをもし国内で賄うとすれば、 約600億トンの農業用水を確保しなければ ならない計算になります。
現在日本が農業用に 使用している2倍以上の水が必要になり、
たちまち水不足に陥ってしまいます。
結局、いまの日本の食料は 世界の水資源によって 支えられているというのが現実であり、
今後世界の人口がさらに増加して 食料が逼迫してくれば、
日本に供給する余裕はなくなっていくでしょう。
こうした危機的状況を克服し、 2050年の日本を豊かにしていく上で 着目していただきたいのが、 江戸時代のノウハウや経験です。
江戸時代は、 鎖国政策により海外からほとんど 物資を輸入していませんでした。
しかし当時の人々は、 国内で調達できるもので生活をすべて 成り立たせていたのです。
農作物はもちろん、山で伐採した木材で家をつくり、 い草を加工して畳をつくり、
夜の灯りは胡麻や菜種油・ロウソクで賄っていました。
着ているものが古くなれば雑巾にし、 それも使い古せば火にくべて燃料にし、 燃やした後の灰は肥料や陶器の釉として使いました。
人糞も貴重な肥料(金肥)となって農作物を実らせ、 町の各所に設けられた 公衆便所から放流された小便は、 そこに含まれる栄養素(窒素、リン、カリウム)によって 江戸湾を豊かな漁場にし、
江戸前名物の海苔、佃煮や寿司ネタとなる 豊富な魚介類をもたらしました。
身の回りにあるものを徹底的に使い切り、 循環させ、 持続可能な社会を実現していたのが、 人口約3,400万人の江戸時代末期だったのです。
私が国連にいた時にSDGsについて 議論が行われた際、
そんなことは日本では既に300年も前から やっていたと発言すると、
参加者から驚きの声が上がり、 早速スピーチを頼まれたものです。
水資源が逼迫する今後は、 日本に昔からあるこうした優れた知恵に、 最新のAI技術を加味して、
世界各地の水の使用量や汚染度などを きめ細かくモニタリングすることで、
限られた水資源を有効利用して、 確実に行き渡らせることが十分可能となります。
これに加えて、 現在の大都市を中心とする 大規模集中型の街づくりを、
河川流域を中心とする小規模分散型の 街づくりに転換していくことも有効です。
江戸時代の末期には全国に 約280もの藩が存在しましたが、
それぞれ他藩からエネルギーの 供給を受けることなく、 自立して社会を運営していました。
この歴史に学び、 日本に113ある大河川の流域を中心とする 経済圏を形成していくことで、
地域毎に十分な水資源を確保できると共に、 独自の資源や特色を活用し
持続可能な社会を構築していくことで、 地方創生も可能になると私は考えています。
森信三氏の予言によれば、 2050年に日本が底力を発揮する上で、 今年は極めて重要な年となる。
2025年、日本は再び甦る兆しを見せる年となるだろうか。 日本人は再び甦る兆しを見せられるであろうか。
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