朝に多い →
心筋梗塞・脳梗塞・くも膜下出血・不整脈
月曜日に増える → 狭心症
冬に33%増 → 心臓死
病気が生じやすい“魔”の時間帯が
存在することをご存じでしょうか?
脈拍や呼吸、睡眠はもちろん、
細胞分裂やたんぱく質の製造まで、
人体はさまざまなリズムにしたがって
「いつ」「何を」おこなうかを精密に決めています。
そのリズムの乱れが、
健康を害する引き金になっているのです。
病気が生じやすいタイミングがあるのはなぜか?
薬が効く時間、
効かない時間はどう決まるのか?
それらを治療に活かす方法は?
ヒトの体、カレンダー、
木星をつなぐリズム
前回までの記事でご説明してきたように、
24時間のサーカディアンリズムについては、
その分子機構が解明されましたが、
それ以外のリズムに関しては
研究途上のものが多く残っています。
とはいえ、
地球上に誕生した生命は、
数十億年の歳月を太陽や月などの
天体の影響のもとに生きてきたわけですから、
宇宙の影響を受け、
その適応の所産として、
各種の生体リズムを獲得してきたと考えるのはごく自然です。
地球の公転周期は約365.3日で、
自転周期は約0.997日です。
月の公転周期は約27.3日で、
自転周期は公転周期と同じです。
太陽系最大の惑星である木星は、
地球の1316倍の体積を有し、
約11.86年で公転しています。
木星は地球に比較的近く、
大きな磁場をもっているため、
古くから地球上の生命になんらかの
影響を及ぼしているに違いないと推測されてきました。
木星には4つの大きな衛星
(イオ、エウロパ、ガニメデ、カリスト)があり、
その自転周期はそれぞれ、
1.77日、3.55日、7.15日、16.69日と、
およそ7の倍数に関連した周期を示しています。
私たちのカレンダーの
1週間が7日に設定されているのも、
そのような影響から生まれた約7日の生体リズム、
すなわちサーカセプタンリズムに
理由を求められるのかもしれません。
ハッブル望遠鏡で観察された木星。
木星は地球に比較的近く、
大きな磁場をもっているため、
古くから地球上の生命に影響を
及ぼしているのではないか、
と推測されてきた
血圧の変動リズムと
太陽風の意外な関係
太陽系の星たちは、
大なり小なり地球上の生命に影響を
及ぼしていると考えられますが、
最も強い影響を与えているのは太陽です。
太陽は、
地球から1億5000万kmほど離れた場所にあり、
直径でいえば地球の109倍もある巨大な熱の塊です。
地球が磁石であるのと同じように
(その証拠として地磁気が存在します)、
太陽もまた、巨大な磁石としての性質をもっています。
太陽の磁場はきわめて強く、
太陽表面の爆発現象であるフレアやコロナ、
プロミネンス等からは、夜も昼も絶え間なく、
太陽を構成する物質のイオンからできた
プラズマ粒子の流れを、
地球をはじめとする周辺の惑星に吹きつけています。
これが「太陽風」で、
磁気嵐やオーロラなどの現象を引き起こします。
太陽風のスピードは、
構成する粒子によってさまざまです。
秒速30万kmで走る光の半分ほどの
スピードの粒子はおよそ15分で地球表面に到達しますが、
速度の遅い粒子では数時間から数日かかります。
6600万年前に地球を襲ったとされる巨大隕石は、
恐竜滅亡の原因であるとする学説もありますが、
地球全体の環境を変えてしまうようなこの隕石衝突も、
1発の大きなフレアの威力の100分の1にすぎません。
太陽からの影響がどれほど絶大なものであるか、
容易に想像がつくと思います。
そのような太陽の影響が、
地球上で生きる生命に対して、
過去何十億年と続いてきたのです。
太陽活動の変化と病気との関係
太陽活動は、
周期的変動と非周期的変動を繰り返しています。
約10.5年周期、約21年周期に加え、
約55年や約77年等の長い周期の変動も存在します。
筆者は、
ミネソタ大学のハルバーグ教授らとともに、
太陽活動の変化と病気との関係を探ってきました。
モスクワでの観測結果ですが、
心臓病の発症やそれにともなう急死等には、
約1年のリズムとともに、
約3ヵ月や約7日のリズムが見出されたのです。
血圧の変動リズムとの関係も同様でした。
3ヵ月は四季、
30日は1ヵ月、7日は1週間のリズムと一致しています。
そして、
このリズムはいずれも、
そのときの太陽風のスピードの変化に
みられるリズムと関連していたのです。
地球上の生命は、
宇宙から受ける影響の積み重ねから、
その適応の所産としてさまざまなリズムを
獲得したと推測されますが、
この結果はそれを支持するデータの一つといえそうです。
時間治療が必要な科学的理由
生命を守るためのヒトのリズムには、
これまでわかっているだけでも、
0.4秒、1秒、4秒、10秒、1分、5分、90分、
12時間、24時間、3.5日、7日(1週間)、
1ヵ月、半年、1年、1.3年、10.5年、21年、50年、
そして、
人類の文化のリズムとしての
500年などがあり、多様で多彩です。
時間治療とは、
これら各種の体内時計が効率よく力を
発揮することができるように、
ハーモニーを整えて自律神経や免疫の力を
最大限に高め、
健康を維持し、
病気から身を守ることができるように導く医療です。
各種の体内時計が効率よく力を
発揮することができるように、
健康を維持し、
病気から身を守ることができるように導く医療を
「時間治療」という
私たちは今、
昼夜の別なく活動する24時間社会において、
複雑で無秩序な照明環境や
仕事環境などと向き合いながら、
健康を維持し、
病気から身を守る生活を余儀なくされています。
それは、
地球の自転周期にともなうサーカディアンリズムの
自然なサイクルから逸脱した、
いわば“異常な暮らしぶり”です。
生活時間と体内時計のずれは、
つねに身近に起こっています。
それゆえに、
現在おこなわれている
「エビデンス(科学的根拠)に基づく医療(EBM)」
だけで健康を維持していくことには限界があり、
時間治療が求められているのです。
時間治療の進め方
時間治療はまず、
一つ一つの体内時計が、
24時間社会においてどのような影響を受け、
どう変化しているのかを調べることから始まります。
次に、
私たちの体に宿る多様で多彩な体内時計の相互連携が、
うまく維持されているかどうかを読み解いていきます。
その連携にほころびがみられる
時間帯が存在しているのであれば、
その時間帯こそが、
病気になりやすい「落とし穴」です。
時間治療とは、
「生命と環境との相互作用の力学」を解読する、
グローカルな(遺伝子・細胞レベルから個体までを、
一瞬から永年を、
地域から地球規模を考慮した)治療法です。
そこで、
「時間治療」がいかに大切であるか、
生命に大きく関わっているかを、
最新の研究成果も踏まえつつ、
ご説明していきたいと思います。
「朝」「月曜日」「冬」など、
病気が生じやすいタイミングがあるのはなぜか?
脳出血や心臓性急死にみられる
約1.3年のリズムの正体とは?
薬が効く時間、
効かない時間はどう決まるのか?
それらを治療に活かす方法は?
時計遺伝子やカレンダー遺伝子の機能としくみから、
体内時計を整える食品まで、
生体リズムに基づく新しい
標準医療=「時間治療」をわかりやすく紹介する。
<参考: 大塚 邦明>