なんと、 深海の熱水孔より 「高温の熱水を噴き出すスポット」が 陸上にあった… 「生命誕生は陸上」 説で生じる謎と 「うまい具合のシナリオ」


2024/11/28

なんと、 深海の熱水孔より 「高温の熱水を噴き出すスポット」が 陸上にあった… 「生命誕生は陸上」 説で生じる謎と 「うまい具合のシナリオ」

 
 
 
 
 
 
 

なんと、

深海の熱水孔より

「高温の熱水を噴き出すスポット」が

陸上にあった…

「生命誕生は陸上」

説で生じる謎と

「うまい具合のシナリオ」

 
 

「地球最初の生命はRNAワールドから生まれた

 

圧倒的人気を誇るこのシナリオには、

困った問題があります。

 

生命が存在しない原始の地球で

RNAの材料が正しくつながり

「完成品」となる確率は、

かぎりなくゼロに近いのです。

 

ならば、

生命はなぜできたのでしょうか?

 

この難題を「神の仕業」とせず、

合理的に考えるために、

 

今回は、

深海底の熱水噴水孔に対して、

同じように熱水環境にある陸上の

温泉における生命誕生の可能性を探ります。

 

 

 

【書影】生命と非生命のあいだ

 

 

新しい「系統樹」

 

前回の記事でご紹介した熱水噴水孔が、

深海底で相次いで発見された、

その頃、生物学では進化の研究について、

新たな方法が用いられるようになっていました。

 

 

 

 
 
黒い煙のように噴き出す
 
「ブラックスモーカー」

 

 

ダーウィンは、

すべての生物を形態で比較して

樹の枝のようにつないだ

 

「生命の樹」を考えましたが

(図「生命の樹から分子系統樹へ」の

左[ダーウィンの「生命の樹」])、

 

20世紀後半になって核酸の

塩基配列が調べられるようになると、

 

形態のかわりにこれを使って

「分子系統樹」をつくることが

可能になったのです。

 

 

米国イリノイ大学の生物学者カール・ウーズ

(1928〜2012)は、

すべての生物が持っている

リボソームRNAの塩基配列を用いた、

分子系統樹をつくりました。

 

 

この系統樹では、

すべての地球生命は共通の

祖先から進化したものとなります。

 

 

共通の祖先はまず、

原核生物の2つのタイプ、

バクテリア(真正細菌)とアーキア

(古細菌)に分かれます。

 

 

次にアーキアから、

ユーカリア(真核生物)が分かれます

(図「生命の樹から分子系統樹へ」の

右[ウーズの分子系統樹])。

 

では、この系統樹の根っこにいると

考えられる共通の祖先とは、

どんな生物だったのでしょうか。

 

この生物は現存していませんので、

系統樹で近くに位置する

現存の生物から類推するしかありません。

 

【図】生命の樹から分子系統樹へ
 
生命の樹から分子系統樹へ。
 
左はダーウィンの「生命の樹」(1837)。
 
右はウーズの分子系統樹(1990)

 

 

調べてみると、

バクテリア、アーキアのどちらの枝でも、

根元に近い生物は80℃以上の

お湯の中で繁殖する「超好熱菌」が

多いことがわかりました。

 

現在知られている、

最も高温で繁殖する微生物は、

 

日本の海洋研究開発機構(JAMSTEC)

グループが海底熱水系で見つけたもので、

「Methanopyrus kandleri」とよばれる、

メタンを生成するアーキアです。

 

この生物は、122℃でも生育しました。

 

一方、

東京薬科大学の山岸明彦たちは、

現存する微生物が持っている

タンパク質のアミノ酸配列を、

 

遺伝子工学の手法によって、

共通の祖先と推定される生物のものに

近づける方向に改変していったところ、

 

より高温に耐えられるタンパク質に

変わっていくことを見いだしました。

 

 

共通の祖先は、

「超好熱菌」だったかもしれない

 
 

これらのことは、

共通の祖先はやはり超好熱菌だった

可能性が高いことを示しています。

 

さすがに300℃以上の熱水は、

生命が生きていくには熱すぎますが、

 

海底熱水系には超高温の海水から0℃くらいの

通常の冷海水まで、

 

さまざまな温度の場所がありますので、

超好熱菌にとってもちょうどよい

温度の環境が必ずあります。

 

 

海底の熱水噴出孔から

噴き出される海水の特徴も、

ここが生命誕生の場所ではないかと

いう考えを後押しします。

 

原始地球大気にはメタンや

アンモニアがあまり含まれて

いないことがわかったので、

 

地球上でアミノ酸などが生成しにくい

のではと考えられるようになったことを、

以前の記事で述べました。

 

 

ところが、

熱水噴出孔から噴き出す海水は、

メタン・アンモニア・水素などを

高濃度に含む「強還元的」なもので、

 

ミラーが考えていた原始地球の環境に近いのです。

 

熱水噴出孔は、

必須元素が高濃度だった

 
 

しかも高温のため、

鉄や亜鉛、銅、マンガンなどさまざまな

金属イオンを通常の海水や湖水など

よりはるかに高濃度に含みます。

 

これらは地球生物が生きていくうえで

欠かせない必須元素です。

 

たとえば亜鉛は、

通常海水には0/001ppm(ppmは

100万分の1を表す単位で1ppm=0.0001%)

以下しか含まれませんが、

 

海底から噴き出す300℃の熱水中には、

数ppmの亜鉛が含まれるのです

(表「各試料中のカリウム(K)、

ナトリウム(Na)、亜鉛(Zn)の濃度」)。

 

 

【表】各試料中のカリウム(K)、ナトリウム(Na)、亜鉛(Zn)の濃度
 
各試料中のカリウム(K)、
 
ナトリウム(Na)、亜鉛(Zn)の濃度

 

 

ただし、高温環境ということでいえば

イエローストーン(米国)など、

陸上でも1000℃近くの高温の熱水を

噴出する場所があります。

 

ここから、

生命が生まれたのは陸上温泉か

海底温泉かという論争が勃発するのです.。

 

 

 

生命誕生の場所は海か陸か

 

生命の起源はきわめて

学際的な研究分野ですので、

 

天文学から分子生物学まで、

さまざまな分野の研究者が参入しています。

 

分子生物学はもともと、

核酸(DNAやRNA)の構造と

機能の解明を目的として

始まった学問ですので、

 

その出身者は生命については

核酸による自己複製の機能を非常に

重要視する傾向があり、

 

また、生命の起源においては

RNAワールドを強く支持する傾向があります。

 

とにかくも、

まずRNAを無生物的に

生成する必要がありますが、

 

それには核酸塩基→

ヌクレオシド→ヌクレオチド→オリゴヌクレオチドというように、

何段階も水を抜きながら

結合する必要があります。

 

 

RNAワールドの泣きどころは、

RNAをつくることがタンパク質をつくるのと

比べてはるかに複雑で大変だということです、

 

そんななかでRNAワールド派の

研究者たちを驚喜させたのが、

 

ヌクレオシド、

さらにはヌクレオチドが

「生物誕生以前の環境条件で」

できてしまうという英国マンチェスター大学の

ジョン・サザーランド(1962〜)のグループが、

 

2009年に『ネイチャー』誌に発表した論文です

(図「〈生物誕生以前の環境条件〉

でのヌクレオチドの合成」)

 

 

【図】「生物誕生以前の環境条件」でのヌクレオチドの合成
 
「生物誕生以前の環境条件」での
 
ヌクレオチドの合成。
 
 
【緑の点線】は、
 
それまで考えられていた経路。
 
4(p)はリボースのピラノース型、
 
4(f)はリボースのフラノース型。
 
3と4(f)から2ができる反応がとくに難しい。
 
【青の太実線】は、サザーランドらが考えた経路
 
(M. W. Powner et al. Nature 459,
239-242(2009)doi:10.1038/nature08013)
 
 

陸上温泉派が指摘する

カリウム濃度

 
 

サザーランドたちの方法で

ヌクレオチドをつくるにしても、

 

何段階もの反応を、

温度やpHを変えながら進める

必要がありますので、

 

海水中は適していません。

 

これらのことから、

カリフォルニア大学サンタクルーズ校の

デヴィッド・ディーマー(1939〜)らは、

生命誕生の場所は陸上の

温泉だったと強く主張しています。

 

 

 

【写真】イエローストーンの間欠泉
 
イエローストーン
 
(オールド・フェイスフル・ガイザー)の間欠泉 

 

 

ディーマーたちがとくに注目するのは、

現生生物の細胞内では

カリウム濃度が高いことです。

 

私たちの体を構成する元素の中では

ナトリウムが比較的多く、

 

カリウムは少ないのですが、

ナトリウムの多くは細胞外に存在しますので、

 

細胞内ではむしろカリウムのほうが、

若干ですが高濃度なのです。

 

 

本記事2ページに掲載した表

「各試料中のカリウム(K)、ナトリウム(Na)、

亜鉛(Zn)の濃度」をもう一度みてください。

 

この表にはさまざまな水や生物中の

ナトリウムとカリウムの濃度も載せています。

 

海水中は、

ナトリウムのほうがカリウムより

圧倒的に高濃度です。

 

彼らは、

生命の誕生した場所にはカリウムが

多かったに違いない、と考えました。

 

 

【表】各試料中のカリウム(K)、ナトリウム(Na)、亜鉛(Zn)の濃度
 
各試料中のカリウム(K)、ナトリウム(Na)、
 
亜鉛(Zn)の濃度(1ページの表を再掲)

 

 

海底熱水系や陸上温泉

(表では代表例としてイエローストーンの

間欠泉を載せました)は、

 

ナトリウムに対するカリウムの割合

(K/Na)は海水よりも若干高いですが、

 

濃度はカリウムがナトリウムより

1桁ほど低くなっています。

 

 

 

必須金属類では

海底熱水系に軍配

 
 

カリウム濃度が高いという条件に合う場所は、

カムチャツカ半島で見つかりました。

 

ここにあるムトノフスキー火山から

噴出するガスが水と蒸気に分離しているのですが、

 

蒸気に多くのカリウムが含まれるため、

 

これが凝縮してできた水には

カリウムがナトリウムよりも4倍ほど

多く含まれていたのです。

 

 

 
【写真】ムトノフスキー火山から噴出する間欠泉
 
カムチャッカ半島・ムトノフスキー火山から
 
噴出する間欠泉 

 

 

現在では、

これほどカリウムが多い陸上温泉は

カムチャツカ以外にはあまり見つかっていませんが、

 

ディーマーたちは、

このような陸上温泉が原始地球上には

たくさんあったのではないかと考えました。

 

 

なお、地球生命に必須とされる亜鉛などの

金属も、カムチャツカの温泉水は海水よりも

かなり高濃度に含んでいますので、

 

これも陸上温泉説とは矛盾しないとされています。

 

ただし、

それらの必須金属は海底から噴き出す

熱水のほうが圧倒的に

高濃度に含んでいますので

この点では海底熱水系に軍配が上がります。 

 

 

 

進化の舞台は、

どうやって陸から海に移ったのか

 
 

もし生命の誕生には、

まずRNA(のような分子)が原始地球上で

無生物的に生成し、

 

そこからRNAワールドに向かうという

過程が不可欠である、

 

という立場をとるなら、

熱水の存在する陸地

(陸上温泉など)が必要であり、

 

生命が海で誕生した可能性は

低いということになります。

 

 

しかし、

5億年前に生物が陸上進出するまで、

生物が海で進化したことは間違いありません。

 

とすると、

陸上で誕生した生命がいかにして、

うまい具合に海に移り住んだのか、

その機構も考えなくてはなりません。

 

ディーマーたちが考えたのは、

次のようなシナリオでした。

 

 

陸上温泉で誕生した原始生命は、

風などにより別の池などに広がっていった。

 

そして、

ついに海につながる河口域にまで達し、

そこから進化の舞台を海へと移していった。

 

 

 

<参考: 小林 憲正




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