日本人は禅、 神道を世界にもっと発信すべき サティシュ・クマールが説く 「美しいビジネスビジネス」


2024/11/26

日本人は禅、 神道を世界にもっと発信すべき サティシュ・クマールが説く 「美しいビジネスビジネス」

 
 
 
 
 
 
 
 
 

日本人は禅、

神道を世界にもっと発信すべき

サティシュ・クマールが説く

「美しいビジネスビジネス」

 

 

気候変動、格差、紛争。

行き過ぎた資本主義が引き起こした

社会課題に対して、

新たな経済のあり方が模索されている。

 

しかし依然として理想と現実の

ギャップは大きいままだ。

 

 

60年以上前から世界に平和と

持続可能な社会の実現を訴え続けてきたのが、

インドの環境活動家、

サティシュ・クマール氏。

 

理想主義者と揶揄されながらも

その活動は多くの経済人に影響を与えてきた。

 

 

メディアのビジョンに

「Better Capitalism」を掲げる

Business Insider Japanでは、

 

6年ぶりの来日に合わせて独占インタビューを行った。

私たちはどんな一歩を踏み出せばいいのだろうか。

 

 

「エコノミー」の本来の意味

 
 

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11月初旬に来日。

88歳のサティシュは東京を皮切りに京都、

広島、下関などでも講演を行った。

 

 

世界的なSDGsの流れの中で、

日本でも持続可能な経済のあり方や

環境に配慮した企業活動など、

社会全体の意識は向上しているように感じます。

 

しかし、未だビジョンを掲げるに留まり、

取り組みが進まない企業も多くあります。

経営者をはじめとするビジネスパーソンは、

山積の社会課題にどう立ち向かえば良いでしょうか。

 

サティシュ・クマール氏(以下、サティシュ):

本来、「economy(エコノミー)」という言葉は美しい言葉です。

 

けれども今、

皆さんが考える「経済」は

「moneynomy(マネノミー)」になっています。

 

もともと「eco」という言葉には「地球」という意味が、

「logy」には「知識」という意味があり、

地球のことをよく知っているというのが「ecology」です。

 

 

「economy」の「nomy」は

マネジメントするという意味で、

「economy」は私たちが住む

地球を管理するという意味なのです。

 

自然界は私たちに膨大な食べ物・水・エネルギーを

生み出してくれますが、

ゴミや汚染、温暖化などは生み出しません。

それが自然界の経済です。

 

一方、私たち人間が営む経済(産業経済)は、

自然が生み出すものと比べてはるかに

小さなインパクトしか生み出していないのに、

たくさんのゴミと汚染と気候変動をつくり出しています。

 

ビジネスも循環型に変えなければなりません。

自然から取り出すものは、

必ず自然に戻さなくてはいけないのです。

 

 

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サティシュ:私は、

企業の利益は4つに分配する必要があると考えます。

 

最初の25%の利益は自然を

回復させることに使いましょう。

 

水やエネルギーがなければ経済は回りません。

 

次の25%は従業員、

働き手になってくれる人たちに支払いましょう。

 

3つ目の25%は社会が健康であるよう、

社会に還元します。地域のために使っても、

非営利団体に寄付しても良いですね。

 

そして最後の25%を、

資本が回り続けるよう株主に対して戻すのです。

 

現実は、

利益のほぼ100%が株主のために使われ、

自然や従業員、

社会への還元にはほんの僅かしか使われていません。

 

 

環境配慮型の企業であっても、

1〜2%しか自然のために使っていないのです。

 

このような考え方を実践できて初めて

持続可能な経済が実現します。

 

 

利益を4分割し、

それぞれに分配するという考え方には共感しますが、

株主をはじめあらゆるステークホルダーに

理解してもらうにはどうしたら良いでしょうか。

 

 

サティシュ:エコノミーとエコロジーは

切り離せない関係性だと理解することです。

 

 

今のビジネス界では、

自然はお金を稼ぐため、

利益を作るための資源。

 

どれだけ搾取できるかといった

対象として捉えられています。

 

 

その考えを変えることが第一歩です。

自然は利益を抽出するための

資源という考え方はまったく逆であり、

ビジネスで利益を得る目的は、

自然を回復するためであると認識することが大切です。

 

 

残念ながら、

人間ですら利益を生み出すための

道具と捉えられています。

 

「HR」と言いますね。

 

ヒューマンリソース、

つまり人的資源です。

 

初めの一歩はその考え方を180度変えることです。

自然も人も資源ではなく、

命そのものであると。

 

次のステップとして、

自然と人間は切り離されていないと理解することです。

 

人間も自然の一部で、

土、空気、火、水、すべて同じ要素からできています。

 

森も同じ、動物も同じなのです。

 

自然というのは遠くにある山や川に限ったものではなく、

私たちも自然の一部なのだと。

 

この2つの考え方を変えることができれば、

自ずとビジネスも変わるのではないでしょうか。

 

 

成長は悪なのか

 
 

ビジネスを進める上で「成長」は、

切り離して考えられません。

 

自然や環境に配慮した

理想的なビジネスを実践するとき、

 

成長とは善でしょうか、

悪でしょうか。

 

脱成長論を唱える人もいます。

 

 

 

サティシュ:自然界を見てください。

木は種から始まり芽が出て幹となり、

やがて樹木となり、

ある程度大きくなったら成長がストップします。

 

 

 

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人間も同じですね。

赤ちゃんがだんだん大きくなり、

身長はだいたい160〜180センチになったら止まります。

 

 

ビジネスも同様で、

「ここまで」というところがあると思います。

 

企業で言えば最初は1人で始まりますが、

100人くらいの規模になったら

「止まる」という選択をしても良いですし、

新しいことを始めるのも良いかもしれません。

 

縦に伸び続けるのではなく、

水平的に伸びていくビジネスがあっても良いですね。

 

ビル・ゲイツやイーロン・マスクのように、

莫大なお金を稼ぐ大きな成長はしない方が

良いのではないでしょうか。

 

 

さまざまな木が森のように林立するイメージで、

小さいけれど多様な企業が存在する、

水平的に広がる経済は素晴らしいと思います。

 

 

人がそうであるように、

企業における「死」も決して悪いことではありません。

 

死がなければ新しいものは生まれません。

 

人も企業(仕事)も役割を終えたらなくなる、

つまり新しいものを始めることが必要です。

 

「ビジネスにおいても、

死は恐れるものではない」というのが

私からのアドバイスです。

 

再生はいつも死から始まるものですから。

 

一方、物質的な成長でないもの、

例えば詩の世界やダンス、

友情……。物質でなければ成長は

無限であっても良いですね。

 

 

日本のビジネス界の人たちは、

日本はもう十分に豊かで、

ここからは成長より分配のフェーズだと

すでに分かっているはずです。

 

 

アメリカも同様で、

経済大国でありながら格差社会は広がり、

武器を作ってイスラエルやウクライナに輸出している。

 

そんな成長には意味がないことは明白です。

 

もちろん、

すべての成長を否定しているわけではなく、

アフリカや南アメリカなど、

インフラが足りていない地域には

成長が必要だと思います。

 

大きな国が少し成長の速度を緩めることで、

水平的な豊かさの広がりを実現できるのではないでしょうか。

 

 

何のために仕事をするのか

 
 

日本のビジネスパーソンの中にも、

サティシュさんの提唱されるビジネスのあり方や

生き方に共感する人がたくさんいます。

 

とはいえ既存の資本主義にとらわれて

トランジションができない人に、

 

サティシュさんならどのような

「問い」を投げかけますか?

 

 

 

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インタビューは東京・神田にある海老原商店で行われた。

1928年に建てられたこの建物は

1看板建築様式をとっている。

 

今でも当時の雰囲気を残したまま修復されている。

 

 

 

サティシュ:「あなたは何のために仕事をするのか」

という問いを贈ります。

 

私の父はビジネスマンでした。

私が幼い頃、父に「なぜ仕事をするの?」と

問うと「友達をつくるため」と答えたのです。

 

そのビジネスがなければ、

お客様に会うこともないし、

サプライヤーに会うこともない。

 

人に出会うための口実なのだよ、と。

 

 

自分が仕事をするのは

「環境を回復するため」

「人を幸せにするため」など

単なる利益よりも大きな

モチベーションがあるならば、

 

自ずとビジネスのあり方は

変わってくるはずです。

 

 

続けて、

父は「ビジネスを通して生み出すものがあるとすれば、

それは美しくなければならない」と言いました。

 

今のビジネスはたくさんのものを

生み出していますが、

残念ながら美しくありませんね。

 

 

美しくあることの次に大切なのは持続すること。

 

日本の皆さんは500年存続する

寺院を建てることができています。

 

素晴らしいことです。

 

 

3つ目に大切なことは人のニーズを満たすことです。

Greed(強欲)ではなく、

人が本当に必要(Need)とするものを作ることです。

 

 

これからはすべての企業の建物の看板に

「我が社はなぜこのビジネスをやっているのか」

というパーパスを書いて掲げてはどうでしょう。

 

誰も「お金を儲けるため」とは書けないですから。

 

 

あらゆる企業が

「人のため、そして地球のため」

という看板を掲げたら良いですね。

 

 

良いことはすべて難しい

 
 
 
人が自分の本当のパーパスに気づくことは
 
とても難しいと感じています。
 
 
ビジネスパーソンたちがそれぞれの
 
 
「真のパーパス」に気づくには、
 
 
どんなことを心がけたら良いですか。
 
 

サティシュ:良いものはいつも難しいのです。

 

素晴らしいアーティストになることも、

素晴らしい詩人になることも、

エベレストに登ることもどれも難しい。

 

 

まずは難しさを恐れないことです。

難しければ難しいほどチャレンジした方が良い、

 

そう思いましょう。

 

簡単な答えではなく、

正しい答えを見つけたいわけですから、

難しさを恐れてはいけません。

 

子どもを産むことも子どもを育てることも、

難しいことですね。

 

 

それから、

すぐに達成しようと思わないことです。

 

木が育つには10年かかります。

待つことも大切です。

 

 

日本には禅、

神道をはじめ西洋とは違う自然観や人間観があります。

 

これからのより良い世界を作っていくために

私たち日本人が貢献できることは何だと思いますか。

 

 

サティシュ:日本人には、

世界に「自然と神は一体である」ということを

伝えていく力があります。

 

一本の木、一輪の花、山、川……

すべてに神聖さが宿ります。

 

「今、ここ」に神があるということを、

自然を通して見ることができる。

 

それが神道の素晴らしい点ですし、

ヒンドゥーとも似ています。

 

 

ヒンドゥー教でも聖なる山(ヒマラヤ)に行き、

ガンジス川で沐浴をします。

 

それは、

自然ともう一度一つになるための

儀式のようなものなのです。

 

 

 

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ガンジス川で沐浴をする人たち。

 

 

世界の人々にキリスト教はよく知られているのに、

「八百万の神」に代表される日本独自の宗教観、

自然観は、

世界ではまだあまり知られていません。

 

 

神道が発する「自然は聖なるものである。

畏敬の念を持って接するものである」というメッセージは、

私たちが取り戻さなければならない

エコロジーそのものですし、

 

リジェネラティブな(再生型の)経済にも

大きく資するのです。

 

ぜひこのような素晴らしい価値観を発信してください。

 

 

加えて日本人は祖先への感謝の気持ちも持っています。

 

私たちはあまりにも傲慢になってしまいました。

 

今の私たちと比べ、

先祖たちは劣っていると思う人も増えていますが、

 

今私たちが享受しているアートも哲学も

すべて受け継がれてきたものです。

 

仏教も老子も芭蕉も、

すべて先祖からきているのに感謝が足りていません。

 

日本にはホンダや三菱、ソニーだけではなく、

もっと深い

「哲学的な日本」があることを忘れないでください。

 

 

日本人は「愛」が苦手

 
 

サティシュさんは「愛」が最も尊く、

あらゆるものに「愛」が必要だと言っています。

 

しかし日本人はシャイで、

「愛」が大切だと頭では理解していても

言葉や態度で表現できないでいます。

 

どうしたら日本人は躊躇なく

「愛」を表現できるようになるのでしょうか。

 

 

サティシュ:「with love」ではなく、

「with joy」あるいは

「with pleasure」(喜びと共に)だとどうでしょう。

 

 

例えば、

私があなたにお茶を淹れるとします。

 

あなたから「ありがとう」と言われたら、

私は「my pleasure」と言いますよね。

 

それはあなたのことが好きだからしたことですが、

「I love you」と言っているわけではありません。

 

インドでは「pleasure」を

「ananda」(アナンダ)という言葉で伝えます。

 

そして、

何をするにしても

「アナンダ」がなければならないと教えられます。

 

日本人がシャイで「love」と言えないならば、

「pleasure」や「joy」と

捉えていただくと良いかもしれません。

 

 

「真実」と「科学」の前に必要なもの

 
 

最新の著書『ラディカル・ラブ』で

最も伝えたいことは何ですか。

 

 

サティシュ:最初に伝えたいことは

「シャイにならないで!」です。

「愛」について語ることは大事なこと。

 

 

2つめとして、

「真実」は大切ですがその前に

必要なのが「愛」ということ。

 

「真実」は人によって異なります。

 

宗教においても、

仏教の真実、ヒンドゥーの真実、

キリスト教の真実があり、

政治においても、中国の真実、

アメリカの真実、それぞれあるわけです。

 

 

このように「真実」しかなければ、

「私の真実だけが正しい」という気持ちとなり、

それがやがて憎しみに、

争いへと発展する可能性もあるのです。

 

 

「愛」が前提にあれば、

誰の真実も受け止めることができます。

 

 

「あなたは共産主義者ですか? 

私とは違うけれど愛していますよ」

「ヒンドゥー教の方ですか? 

 

私は分からないけれど愛しています」と、

自分とは違う立場の人を受け入れることができます。

 

それはすなわち、

多様性の祝福につながるのです。

 

さらに言うと「真実」は必ず

「科学」の前になければいけません。

 

テクノロジーがビジネスに使われてしまう前に

「真実」が、

そしてその前に「愛」がなければならないのです。

 

 

仮に「科学」が真実や愛の前に出てきてしまうと、

武器が作られ核兵器が作られ

間違った利用がなされてしまいます。

 

 

けれども自然と人に対しての「愛」が

前提として存在すれば、

そんなものは作られることはないでしょう。

 

 

今の社会システムは、

画一的であるがゆえに多くの分断を生み出し、

画一性は戦争を引き起こします。

 

世界平和のためには、

本当の意味での多様性が

祝福されている必要があります。

 

アメリカや中国、ロシアがそれぞれ

自国のシステムを外に押し付けようとするとき、

イスラエルの主張をパレスチナに

押し付けようとするとき、

戦争は起こります。

 

 

人は一人ひとり違います。

 

まずはその違いを認め、

尊重するところから始めなければなりません。

 

他者を受け入れるには、

自分を愛する必要があります。

 

 

自分を愛するということは、

決して傲慢になることではありません。

 

自分を受け入れるところからしか

世界平和は始まらないのです。

  

  

 <参考:吉田麻美 >




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