私たちは何を
食べるべきではないか
人間の健康にとって、
日々何を食べるかは非常に重要である。
私たちは何を食べ、
何を食べるべきではないのだろうか。
ずばり、
数多くの信頼できる研究によって
健康に悪いと考えられている食品は、
①赤い肉(牛肉や豚肉のこと。
鶏肉は含まない)と加工肉(ハムやソーセージなど)、
②白い炭水化物、
③バターなどの飽和脂肪酸の3つである。
順に説明していきたい。
① 牛肉・豚肉・ハムなど
2015年10月、世界保健機関(WHO)の専門組織、
国際がん研究機関(IARC)が、
「加工肉には発がん性があり、
赤い肉にはおそらく発がん性がある」と
発表[*1]した。
「加工肉」とは具体的にはハム、
ソーセージ、ベーコンなどのことである。
詳細に説明すると、
IARCは加工肉をグループ1(人に対して発がん性がある)、
赤い肉をグループ2A(おそらく発がん性がある)に分類した。
グループ1は発がん性のエビデンスが
最も強いグループであり、
このグループに分類されるものには
他にタバコやアスベストなどがある。
また、グループ2Aに分類されるものには臭化ビニル、
アクリルアミドなどがある(図1)。
加工肉は、
1日あたりの摂取量が50g(ソーセージ1本、
ベーコンスライス2枚)増えるごとに、
大腸がんのリスクが18%増加する。
また、赤い肉は、1日100g摂取するごとに
大腸がんのリスクが17%増加する。
大腸がんは日本人に急増しているがんで、
がんにかかる人数(罹患数)では男性で胃がん、
肺がんに次いで3位、
女性では乳がんに次いで2位となっている(2015年時点。図2)。
日本人を対象にした国立がん研究センターの研究[*2]もある。
岩手から沖縄まで広い地域に住む45〜74歳の
約8万人を8〜11年間追跡したものである。
結果、赤い肉や加工肉の摂取量が多くなるほど、
大腸がんのリスクが高くなる傾向が認められた。
加工肉に関しては、
摂取量の多い人と少ない人の間で統計的に
有意[後注1]な大腸がんリスクの
違いは得られなかったものの、
全体的な傾向としては摂取量が多い人ほど
大腸がんのリスクが高いという結果であった。
赤い肉や加工肉を食べることで
大腸がんのリスクが上がる理由として、
①ヘム(赤い肉に含まれる赤い色素)、
②硝酸塩・亜硝酸塩(加工肉の鮮度維持や防腐目的で使用される)、
③ヘテロサイクリックアミン(複素環式アミン)・
多環式アミン(肉を高温調理する際に生成される)の
3つが関与していると考えられる。
硝酸塩・亜硝酸塩は加工肉のみに含まれるため、
加工肉の方が赤い肉よりも
健康への悪影響が大きいと考えられている。
ヘテロサイクリックアミンなどは
肉が焦げた部分に特に多く含まれる。
よって同じ赤い肉でも、
焼肉やバーベキューのように直火で
高温調理したものの方ががんの
リスクをより高めるとされている。
その他の病気のリスクはどうだろうか。
世界に目を向けると数多くの研究が実施されている。
9つの論文を統合した研究[*3]によると、
加工肉の摂取量が多い人ほど、
全死亡率(原因にかかわらず死亡する確率)、
脳卒中や心筋梗塞など動脈硬化による病気での死亡率、
がんによる死亡率がいずれも高いことが明らかになっている[後注2]。
5つの論文をまとめた別の研究[*4]によると、
加工肉の摂取量が1日あたり50g増えるごとに
脳卒中を起こすリスクが13%増加し、
赤い肉の摂取量が1日あたり100〜120g増えるごとに
脳卒中のリスクが11%上がることが示唆されている。
赤い肉や加工肉の摂取量をゼロに
するべきであると言うつもりはないものの、
健康に悪い可能性があることをきちんと
理解した上で、
たしなむくらいの控えめの
量を楽しむことをおすすめする。
さらには、
赤い肉を食べるにしても高温調理
(焼肉やバーベキューなど)ではない調理法を選択し、
また焦げた部分は避けた方がよいだろう。
健康に悪い食べ物
② 白い炭水化物
「白い炭水化物」とは、白米、うどん、パスタ、
小麦粉を使った白いパンなどの
「精製された炭水化物」のことを意味する。
精製とは、
食べにくい部分や食味の悪い部分を取り除くことで、
米ならばぬかや胚芽などを取り除く精米のことを指す。
科学的には「白い炭水化物≒糖」である。
つまり白いご飯も甘いお菓子も、
身体にとっては似たようなものなのである。
白米に代表される「白い炭水化物」は、
血糖値を上げ、糖尿病や、
脳卒中や心筋梗塞などの動脈硬化による
病気が起こるリスクを高める可能性が
あることが多くの研究で報告されている
(今から紹介する研究では、
白米や玄米の摂取量をグラムで表現しているが、
ご飯は茶碗に軽く盛ると1杯で約160gで、
大盛りにすると約200gとなる)。
まずは糖尿病である。
白米の摂取量が多ければ多いほど
糖尿病のリスクは上がることが分かっている。
2012年、
世界的にも権威のある英国の医学雑誌『BMJ』に、
白米と糖尿病の関係に関する4つの
研究の結果をまとめた論文[*5]が発表された。
それによると、
白米の摂取量が1杯増えるごとに
糖尿病になるリスクが11%増えるとされた。
日本でのエビデンスも見てみよう。
前述の論文でもデータの中の1つとして用いられているが、
国立国際医療研究センターの
南里明子氏(現在の所属は福岡女子大学)らが
行った日本人のデータを用いた研究[*6]によると、
日本人においても白米の摂取量が多ければ
多いほど糖尿病になる可能性が
高くなることが明らかになった(図3)。
論文では、
男性では白米を食べる量が1日2杯以下の
グループと比べて、
1日2〜3杯食べるグループでは5年以内に
糖尿病になるリスクが24%高いことが明らかになった。
その一方で、
ご飯を1日2〜3杯食べる人と、
3杯以上食べる人たちで糖尿病の
リスクは変わらなかった。
1日2杯が糖尿病のリスクが
上がりはじめる境界だと考えられる。
女性ではもっとシンプルで、
白米を食べる量が多ければ多いほど
糖尿病のリスクが高くなる。
白米を1日1杯しか食べないグループに比べて
(最も少ないグループの白米摂取量が
男女で違うので注意が必要)、
1日2杯食べるグループでは15%、
3杯食べるグループでは48%、
4杯以上食べるグループでは65%も
糖尿病になるリスクが高くなることが分かった。
ただこうした解釈は、
白米の摂取量の推定が正確であることを
前提としたものだ。
白米の摂取量は自己申告であるため、
記憶違いや罪悪感からの
過少申告がある可能性がある。
さらには、
1日1時間以上の筋肉労働や激しい
スポーツをする人には、
統計的に有意な関係が見られなかった。
これらのことを踏まえると、
白米を食べる量が多い人ほど、
糖尿病になってしまう確率が高くなる傾向が
確認できた、
というざっくりとした理解に留めるのが無難だろう。
個人的には、
白米を食べる量は控えめにするのが良いと考える。
糖尿病の家族歴があると
糖尿病になる確率はさらに高まるので、
リスクを下げるためにもできるだけ
白米などの白い炭水化物は減らした方が良いだろう。
どうしても白米を食べたい人は、
毎日1時間以上の激しい運動をすることで、
糖尿病のリスクを上昇させずに済むだろう。
ちなみに、
2016年に『BMJ』に報告された複数の
論文を統合した研究[*7]によると、
白米の食べすぎは糖尿病のリスクを
上げるものの、
がんのリスクを上げることはなかった。
健康に悪い食べ物
③ バターなどの飽和脂肪酸
油にも健康に良い油と、健康に悪い油がある。
一般的に、常温で固形で、
乳製品や肉などの動物性の
脂肪のことを飽和脂肪酸という。
一方で、常温で液体で、
植物に由来する油のことを不飽和脂肪酸という。
健康に良い油の代表格が不飽和脂肪酸の
オリーブオイルであるのに対して、
健康に悪い油の代表は
バターなどの飽和脂肪酸である。
バターの摂取量が多い人ほど、
わずかであるものの死亡率が高いということが
複数の研究をまとめた研究[*8]で報告されており、
バターは健康に悪い食品であると考えられている。
たまに楽しみとして嗜むくらいであれば
問題ないと考えられるものの、
日常的に使う油に関しては
オリーブオイルなど植物性の油に
することをおすすめする。