「お腹の調子が悪くて気分が落ち込む」
という経験がある人は多いのではないだろうか。
これは「脳腸相関」と呼ばれる
メカニズムによるものだ。
腸と脳は情報のやりとりをしてお互いの
機能を調整するしくみがあり、
いま世界中の研究者が注目する
研究対象となっている。
腸内環境が乱れると不眠、うつ、発達障害、
認知症、糖尿病、肥満、高血圧、
免疫疾患や感染症の重症化……と、
全身のあらゆる不調に関わることが
わかってきているという。
いったいなぜか?
脳腸相関の最新研究を解説した
『「腸と脳」の科学』から、
その一部を紹介していこう。
私たちヒトを生物分類の階級に従って表記すると、
動物[界]、脊椎動物[門]、哺乳[綱]、サル[目]、
ヒト[科]、ヒト[属]、サピエンス[種]となります。
つまり、
界、門、綱、目、科、属、種の順の
分類階級があります。
この分類階級は、
進化の過程をたどることのできる道しるべです。
同じ階級に属している生物同士は、
性質も似通っています。例えば、
ヒト科に属している生物にはチンパンジー属や
ゴリラ属があります(図2─1)。
メタゲノム解析によって、
ヒトの腸内マイクロバイオータもこのように
分類することが可能になったのです。
解析の結果、
ヒトの腸内マイクロバイオータの99%以上は、
細菌界における以下の4つの門が
優勢であることがわかりました。
1 ファーミキューテス門(Firmicutes:名称がBacillotaに改訂された)
2 バクテロイデス門(Bacteroidetes:名称がBacteroidotaに改訂された)
→ヒトの腸内に多く存在する腸内細菌の代表格で、腸管免疫に影響を与える
3 アクチノバクテリア門(Actinobacteria:名称がActinomycetotaに改訂された)
4 プロテオバクテリア門(Proteobacteria:名称がPseudomonadotaに改訂された)
保有しているヒトは非常に少ないのですが、
その他、
フソバクテリア門(Fusobacteria)や
ウェルコミクロビウム門(Verrucomicrobia)、
ユーリアーキオータ門(Euryarchaeota)
などの細菌も含まれています。
なお、
日本人の腸内マイクロバイオータは、
紹介した4つの門の細菌が
90%以上を占めていますが、
人種によって少し異なります。
欧米人では、
4つの門に加えて、
ウェルコミクロビウム門と
ユーリアーキオータ門が加わりますが、
日本人ではこの2門は極めて少ないです。
住む地域や人種で
大きく変化する
このように、
住む国や地域、さらには人種によって
腸内マイクロバイオータは、
大きく変化するのです。
なお、ヒトと他の動物、
例えばマウスやラットなどと
腸内マイクロバイオータを比較すると、
その組成は大きく異なります(図2─3)。
そのため、
マウスやラットを用いた実験結果を、
そのままヒトに当てはめて考えることには
注意が必要です。
また、
体内では胃から大腸に向かうにしたがって、
周囲の環境
(酸性度や酸素濃度)が大きく変化します。
それに合わせ、
腸内マイクロバイオータもその組成と数が
大きく変化します(図2─4)。
ちなみに、
私たちヒトの腸内マイクロバイオータの中でも、
消化吸収を補助したり、
免疫を活性化したりする有益な作用をする
細菌として、
ビフィズス菌や乳酸菌が知られています。
これらは「善玉菌」とも呼ばれ、
ビフィズス菌は、
先ほどの3のアクチノバクテリア門に、
乳酸菌や酪酸を産生する細菌は
1のファーミキューテス門に属します。
一方、私たちの体に対して悪影響を及ぼす
代表的な細菌として、
1のファーミキューテス門に属するウェルシュ菌や
ブドウ球菌などがあり、
「悪玉菌」とも呼ばれます。
そして、
健康なときには大人しくしているけれど、
体が弱ってくると、
腸内で悪さをするような細菌も私たちの
腸内マイクロバイオータには存在します。
このような細菌は、
「日和見菌」とも呼ばれ、
ファーミキューテス門に属するレンサ球菌や、
4のプロテオバクテリア門に属する
毒を持たない大腸菌やピロリ菌、
カンピロバクターなどがあります。