夏の水にまっわる不思議な話
第一話 泉の精霊
それは私がまだ小学生の時の話です。
よく遊んでいた友達のKちゃんと二人で
その日も裏山へ行きました。
花を摘んだりリスを見つけたりしていた
のですが、
一番の目的は幻の泉を見つける事でした。
数年に一度、
地層の関係で突如として現れる
幻の泉はテレビでも放送されていましたが、
あれと同じものが私の地元にもあったのです。
ただ私の方は数年に一度ではなく、
数週間に一度くらいでしたが。
それはものすごく綺麗な泉で、
葉っぱを浮かべると
波もないのに中央へ吸い寄せられて
いくのが面白かったです。
そしてある時、
不思議なことが起こったのです。
その日は夏にしては肌寒かったのですが、
しばらくすると泉の中央辺りに
白いモヤのようなものが発生し始めたのです。
やがてそのモヤはわっか状になり、
よく見るとその輪は
水の精霊たちで繋がっていました。
そしてその真ん中に人間のような
姿をした誰かが浮かんでいたのです。
輪郭はボャッとして分かりませんでしたが、
たぶん精霊の長だったと思います。
私とKちゃんは言葉もなく
それを見つめていたのですが、
1分ぐらいすると輪も精霊も霧のように
なって消えていきました。
私たちは両親にこのことを話しましたが
「湧き出る泉は温泉のようなものであり、
湯気がそう見えたのではないか?」
と半信半疑でした。
それから何度も泉へ行ったのですが、
そういった現象はおこらず、
あれが何だったのかは不明の
ままです。
第二話 洞窟の向こう側
「じゃあ、お前が行って来いよ」
リーダー格のAが言った。
僕らは滝の洞窟に来ていた。
まずは格下の僕が中を見てくることに
なった。
一応、懐中電灯だけは渡され中に
入れられた。
洞窟は真っすぐに続いており、
鋭角に右に折れていた。
そこを曲がった辺りで
「わからなくなったら戻って来いよー」
という支離滅裂のAの声が聞こえた。
僕は目印に石を置きながら
前に進んだ。
洞窟の中は湿っていて嫌な感じしか
なかった。
3回は曲がりかなり進んだから
限界だと思い引き返そうとした時、
出口が見えた。
たぶん滝の裏側だから、
それならいったん出てぐるっと
回った方が安全に元に戻れると思い、
外に出た。
するとそこはとても不思議な
世界だった。
まず雨が降っていた。
その雨はミストシャワーのような
やわらかいものだった。
だけど空はきれいに晴れて
青々しくしていた。
そして植物はどれも
ワンサイズ大きく生き生きしていた。
南米に生えているような木が生い茂り、
三つ葉のクローバーの巨大版みたいな
ものもあった。
金と銀との蝶がつがいで飛んでいた。
透明で内臓が透けて見えるカエル
もいた。
そして土が茶色ではなく緑だった。
遠くでカッカッ!という
聞いたことがない動物の声がしたので
恐くなり引き返した。
体感としては15分くらいだったと思うが、
実際には1時間くらい経っていたらしく、
戻ったらAが
「大丈夫か、迷ったのか!?」
と焦っていた。
僕は「大丈夫だよ。中は行き止まりだった」
と噓をついた。
それからしばらくして役場の手配で
洞窟は閉鎖された。
鉄格子で鍵がかけられたので、
もう中には入れない。
第3話 岩場にいた人魚
私は漁師の息子です。
子供の頃はよく海に潜って
遊んでいました。
そんな時に体験した不思議な
話を一つ。
いつものように岩場でカキなどの
貝を獲っていた時、
ふと沖合で海面に水しぶきが
上がりました。
これはイルカでも迷い込んできたのかな
と思い、
潜って岩場伝いに近くまで
行ってみたのです。
するとそこには信じられない
生き物が泳いでいました。
いわゆる人魚と言うやつです。
おとぎ話に出てくる様そのもので
上半身は人間、
下半身は魚でした。
ウロコはなく、
魚の皮膚のように銀色でした。
顔は西洋人のようで黒髪。
目は細めでした。
魚と会話できるらしく、
なにやら楽しそうに多くの魚たちと
たわむれておりました。
岩場に隠れながら見ていたのですが、
人魚は目ざとく
私の存在に気づいたらしく、
とてつもない速さで海底へと
姿を消してしまいました。
あの尾びれのスムーズな動きと
目が合った時の人間味のある
瞳が忘れられません。
<参考:BEAUTY&ECOONE>