華やかなワンピースで登場した黒川伊保子さん。
知性とぬくもりあふれるやわらかな声で、
客席に語りかけます。
今回のトークのテーマは
「人生に効く脳科学〜思い通りに生きる
ための対話のトリセツ〜」です。
『例えば、受験生の息子がダラダラしていたら、
「ダメよ!」って叱りたくなりますよね。
でも“ダメ出し”は脳には逆効果』と黒川さん。
『「走っちゃダメ」と言われると、
脳は「走っちゃ」のところで走る信号を強めます。
だから止まれない。
受験生に「ダラダラしてちゃダメ」と叱るのも同じ。
「ダラダラ」のところで脱力の信号を強めるので、
ダラダラから抜け出せないの』
では、どう声をかければいいのでしょう?
『一問だけ解くことを誘導します。
我が家は「お母さんのために、
一問だけ、
一問だけ解いて」と懇願しながら、
脚にすがりつきました。
すると、しょうがなく一問だけやるんです。
でもそのままスイッチが入って
他の問題も解き続けるんですよ。
もちろん「一問だけ解いたら、
ココア入れてあげる」
というスマートな言い方も
あると思います』と説明すると、
客席からも感心した頷きが続々と。
『これは自分にも使えます。
“お皿一枚だけ洗ったらコーヒーを飲もう”と決めると、
気づけば全部洗えてしまうんです』と、
日常に落とし込める話が次々に飛び出します。
黒川さんが繰り返し強調するのは、
“認めること”の大切さ。
『成績が悪くても「分数は完璧やん」
「前にミスしたところ、今日は合っているね」と、
まずできている部分を認めてあげましょう』。
こうして各論で認められると、
脳は、自らが目論見通りに動いていることを
確認できるので、
“万能感”や“できる自分”が生まれ、
結果的に行動が変わっていくそう。
さらに会場から笑い声があがったのは、
夫婦の会話例。
『奥さんがごはんを出してくれたら、
「おいしいね」だけではなくて、
「このナス、味が染みてておいしいね」と
各論で認める必要があるんです。
たとえ「それ、買ってきたお惣菜やねんけど」って
返されてもひるまないで、
「こんなお惣菜を見つけられる
君が好き」まで言ってくださいね』。
笑いが起きつつも、なるほど!
となる内容です。
それでは、身近でありつつ難しい夫婦関係について、
さらに伺っていきましょう。
夫婦関係を平和に楽しく続けることは
永遠のテーマではないでしょうか?
根本的に、
脳の仕組み自体が男女で違うのでは?
と思いがちですが
『男女で脳の機能に差はありません』ときっぱり。
ただし、
生殖機能の役割の違いにより、
とっさの時に起動される脳の回路が
異なるのだといいます。
『男性は“縦方向”の回路が働きやすく、
女性は“横方向”、
つまり左右の脳を連携させて広く
周囲を察知する回路が働きます』。
この違いが、
男女のすれ違いを生むのです。
男性は一点集中型で問題点を探します。
『だから、人の話を最後まで聞けないの。
「で?結論?」
「要するにこういうことでしょ」なんて、
まとめたくなっちゃうの』。
一方、女性は共感を得ながら話すことで、
自分の脳の中から答えを導き出します。
『共感してもらいたいのに、
いきなり問題点を指摘されてしまうから
怒っちゃうんですよね』。
これは男性に思いやりがないからではありません。
『男性は目の前の大切な人を、
「1秒でも早く助けたい」って
思っているんですよね』。
『世の男性に伝えたいのは、
女性の話にまず共感してほしいということ。
「そりゃ、がっかりしたよね。
かわいそうに」と1.2倍共感すれば、
「それほどでもないけど・・・」って丸く収まりますよ』。
ところが、
夫婦関係も歳を経ると関係性が変化するとか。
『これも生殖ホルモンの関係です、
40代くらいになると逆転してくるの。
夫がおしゃべりになって、妻が聞く側。
まあ、
男性の長い話は大体うんちくですけどね』と
会場を笑わせてくださいます。
『生殖期間が終わると、
人はやっと人間として、
人生を楽しめるんです。
ここからは地球旅を遊び尽くす時間。
夫も少し女性寄りになって、
人の話が聞けるようになるの。
おしゃべりにもなるけど、
妻はうんうんって話を聞いてあげてください』。
夫婦の会話道のゴールは
“他愛のない話”だと話される、黒川さん。
『「麻婆豆腐食べようと思って中華屋入ったらさぁ、
いつもの癖でラーメン頼んじゃって、
麻婆豆腐食べてないのね」
「町はクリスマス一色だね」なんて
意味がない会話でいい。
これが脳にとてもいいんです』。
他愛のない会話は、
右脳、左脳、小脳と、脳全体に
信号をいきわたらせることになるので、
脳を活性化するエクササイズなのだそうです。